EVANGEをご覧の皆さん、こんにちは。フォースタートアップスのEVANGE運営チームです。私たちが所属するフォースタートアップスでは累計1,500名以上のCXO・経営幹部層の起業や転職のご支援*をはじめとして、多種多様なビジネスパーソンを急成長スタートアップへご支援しています。EVANGEは、私たちがご支援させていただき、スタートアップで大活躍されている方に取材し、仕事の根源(軸と呼びます)をインタビューによって明らかにしていくメディアです。
安達 隆(Takashi Adachi)
2009年にチームラボ株式会社へ入社し、受託開発等に従事。2012年に株式会社Socketを共同創業。Eコマース領域でSaaS事業を立ち上げ、KDDIグループに売却。株式会社メルカリにて社内業務システムの開発を担当したのち、2019年にSmartHRへ入社。2020年に執行役員・VP of Product Managementに就任。2024年1月よりCPO(最高製品責任者)に就任し、プロダクト戦略の策定と組織作りを推進。
チームラボ株式会社(以下、チームラボ)を退社し、起業したことが大きかったと思います。
元々スタートアップに対する憧れというか、いつかやってみたいという気持ちがありました。インターネットが好きで、学生時代はインターネットばかりやっていたのですが、ある時シリコンバレー在住の方が日本の学生を呼び寄せてシリコンバレーツアーをやっているという募集を見つけました。
その時僕は就活時期で、周りはみんな大企業に就職していったのですが、自分がスーツを着て伝統的な大企業で働いているイメージが持てなかったんです。そんな時にシリコンバレーに行き、現地のテック企業で働かれている人たちに話を聞くと、すごく楽しそうだし、こういうところに自分の居場所がありそうだなと思いました。
未来に対する楽観的な考え方がすごく強いなと思って。日本にいると、どうしてもリスクを取らない保守的な空気ってあるんですけど、シリコンバレーには本当に気軽に挑戦する文化があって、そこがいいなと思いました。
空気もカラッと乾いていて、気候が良くて。こういう環境で人は楽観的になれて気軽に挑戦をするようになるんだろうな、こんな世界があるんだなと感じたのを覚えています。
いつかはスタートアップに挑戦したいという思いもあり、新卒ではインターネット業界で企画職ができるチームラボを選びました。
チームラボは、今はアートで有名ですが、当時は受託開発がメインだったんですよね。声をかけていただいた企業にヒアリングをして、課題と予算と要求をお預かりして、ソリューションの提案をし、受注後はその案件のプロジェクトマネジメントや要件定義まで、幅広い業務を担当していました。
その中でも提案の部分がすごく大変で、「予算は小さいけれど面白いことをしたいです、SNSでバズりたいです」といった要求をいただくことが多くて。企画に対する基準がとても高い会社だったので、提案書を書いては「これの何が面白くて、お客様にどういうメリットがあるのか」と厳しく問われて、何度もやり直しての繰り返しでした。時間と予算の制約がある中で、面白いだけでなく本質的に意味のある企画を求められるので、その点では起業した時よりも大変でしたね(笑) 。
スタートアップに憧れはあっても、自分が起業することはあんまり考えていなかったのですが、たまたま友人が「会社を作るから一緒にやろうよ」と誘ってくれました。
具体的なことはまだ未定の状態で起業したので、最初はキャッシュインのために受託案件をやっていこうと、ウェブサイトの制作やコンテンツマーケティング向けの原稿を制作する仕事などをしていました。最終的にはプロダクトを作りたかったので、起業して1年半くらいはサービスのアイデアを作って練って、試して、ということを10回くらい繰り返していました。
受託開発時代は数々の制約の中、針の穴に糸を通すような企画が求められていましたが、起業してからはどうやったら世の中に価値が提供できるのか、どういうところにペインがあって、どうすればそれをテクノロジーで解決できるかをゼロベースで考えられたし、自由度が高くてすごく楽しかったです。
一方で資金調達してからは大変でしたね。プロダクトが売れるようになってきて、人を雇って会社を大きくしていくと、当然ですが毎月出ていくお金はすごく増えるし、社員に対する責任も大きくなります。当時はスタートアップの調達金額も少なかったので、プロダクトマネージャー的な役割を担ってた僕は、どういう機能を作ればお客さまが発注してくれて、来月倒産しないで済むか、ということを毎日考えていました。それがすごくやりがいではあったし、同時に緊張感もありましたね。
最終的に会社を売却したあと、そこを辞めるという判断がいちばんハードだったと思います。親会社が求めるパフォーマンスを出せなかったり、方針が違ったりして、このまま続けても親会社に対しても社員に対してもバリューを出せないと考え、最終的に会社を辞める判断をしました。そのことは自分の中で明確に一つの挫折というか、周りの期待に応えられなかった経験として刻まれています。
辞めたときの社員数が20名くらいの規模だったので、今の自分の実力で伸ばせるのはここくらいまでなんだなと感じました。その時の思いが後に株式会社メルカリ(以下、メルカリ)に入社する理由にも繋がっているんだと思います。
その後は燃え尽きたというか、半年ぐらい働かずにブラブラしていました。でも3、4か月目くらいで精神的にキツくなってきて。「自分は働いていないとダメなんだ」と気付いたことは一つの学びでした。それまで自分は働くのがそこまで好きではないと思っていたんですけど、仕事をしていないことがストレスで歯軋りしすぎて顎関節症になりました。
その時に知り合い経由でメルカリへのお話をいただいたのですが、最初は全く選択肢に無かったんです。でもお会いしたメルカリの方が「いつから来てくれますか!」みたいな感じでとても明るく誘ってくださって、そういう感じに惹かれて入社しました。
当時メルカリは上場直前くらいのタイミングで、まさに日本を代表するスタートアップでした。自分は20人くらいの会社でうまくいかなかった経験があったので、「成功しているスタートアップはどうやって会社運営をしているのだろう」と、直接見てみたい気持ちもありました。
率直にすごいなと思いましたね。何がすごいかというのは言語化が難しいですが、「成長するスタートアップってこうなんだ」と日々実感しました。プロダクトの作り方もそうですし、組織の体制、バックオフィスのあり方、あらゆるところで感じました。
「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」が会社のミッションだったのですが、とにかくこのミッションに対して忠実に会社を運営していて。必要であれば結構ドライな人事もするんですよね。僕は1年しか在籍していないのですが、その中で何回もチームの入れ替えがあって、その際あまり現場とコンセンサスを取らないんですよ。「来週からあなたはこのチームに行ってください、よろしくお願いします」みたいな感じで急に異動が決まっていました。当然混乱も起きるんですけど、そこを気にするよりも、とにかくグローバルで成功するんだという強い意志が常に感じられて、目的意識の強さが会社をドライブしていくんだなと肌で感じました。
CSそのものというよりも、業務課題を解くことに興味がありました。その時は「問い合わせ対応にかかる時間を短くする」という明確なゴールがあったので、そこに対して現状の調査や解決策の提案をしていくのは楽しそうだなと思いました。
当時は多くの人がその課題に取り組んでいたので、もちろん僕だけの成果では全然ないですが、結果として緊急度の高かった課題はかなり改善できました。CtoCのアプリの会社に入ったのに、気がついたら社内のオペレーション改善に取り組んでいたので、自分はこういう領域が好きなんだなと改めて実感しました。
実は会社を売却した後にSmartHRとは一度接点を持っていました。当時は当てはまるポジションがなくご縁がなかったのですが、時を同じくして、フォースタートアップスさんにもお会いしていました。その後、結果的に知人経由でメルカリに入社したのですが、ちょうどメルカリから転職を検討している頃、時を経てSmartHRへご縁があり、入社をすることになりました。
一番の理由は人が良いことでした。居心地が良さそうだし、カルチャーマッチもしそうだなと思ったことです。あとは、この会社は確実に10倍以上に伸びると思い、今のタイミングで入ったら面白そうだなと思いました。 当時はプロダクトマネージャーを採用し始めた時期だったので、プロダクトマネジメント組織を0から作っていける未整備な環境にも惹かれました。
メルカリで自分のやりたいことは業務効率化だと分かったので、その点でもSmartHRは最適な環境でした。
僕は、世の中のプロダクトは大別すると「道具」と「娯楽」に分かれると思っています。道具とは目的のための純粋な手段であり、娯楽というのはそれ自体が目的となるものです。もちろんグラデーションはあるので、娯楽っぽい道具も、道具っぽい娯楽もあると思います。メルカリで経験したCSの改善を通じて、僕は道具を作りたい側の人間なのだと自覚しました。
楽しそうに仕事をしている会社だなと感じました。入社前のイメージとのギャップもなかったです。それから会社が大きくなってマネジメントをすることになり、最初はとても苦労しました。
元々僕はプレイヤー志向が強くて、起業してうまくマネジメントができなかった経験もあり「自分はマネジメントに向いていない」という強固な思い込みがあったので、入社する時もマネジメントはやりませんと言っていました。ですが会社のことが好きになっていくうち、「苦手だからマネジメントはしない」というのは、自分のことしか考えていないなと思って。会社のことが好きだし、この会社を成功させるためにできるだけのことをしたいと思えたところが、マネジメントに挑戦した理由としていちばん大きかったと思います。
前提として、CxOの肩書きを得たいと思ったことがないので、そこを意識的に目指す方の参考になるようなことは言えないと思います。ただ、CxOになって何をしたいのかは考えた方がいいと思っています。「どうしたらCxOになれますか?」とよく聞かれますが、「CxOになってどうしたいか」のほうが大事だと思います。自分が何を欲しているのか、自分の人生をどうしたいのか、 自分にとって何が幸福かということですよね。僕の場合は、すごく簡単に言うと「好きな人たちと良いものを作りたい」ということが大切で、それを求めていった結果、たまたまCPOという役割を担うことになりました。
やりたいことを見つけるためには、見つかるまでいろいろ試してみるしかないと思います。僕はメルカリで自分がやりたいことが明確になりましたが、そういうタイミングが訪れるまで、気長に探し続けるのが良いのではないかと。
例えば転職するのだったら、たくさんの人に会って話を聞いた方が良いと思います。自分のアンテナに何が引っかかって、何が引っかからないのかを1個ずつ言語化していくことが自己理解に繋がると思いますね。
期待に一つずつ応えていくという信頼の積み重ねなのかと思います。
そのために大切なことの一つは経営視点を持つことだと思っています。プレイヤーの視点だと、自分がどういうスキルを身につけたいか、どういう肩書きになりたいか、どういうプロダクトを作りたいかという視点で考えがちです。経営視点を持つというのは、自分のいる会社のビジネスがどういう風に成り立っているのかを考えて、どういう動きが会社の利益や成長に繋がるのかを考えて動くということです。
もう一つは、仕事に対して自分がその気になることだと思います。会社としてやらなければいけないことと、自分がやりたいと思っていることが最初から一致していることってそんなにないと思います。その中で「こういう成果を出してください」と言われた時に、そこに対しいかに本気でやりたいと思えるかですね。それがないと人を巻き込めないし、良い結果が出せない。「言われたからやっています」という感じで取り組むのではなく、ちゃんと自分が面白がる、面白がれるまで深堀ることが大事だと思います。
「自分が本当は何を求めているか」を真摯に考えることが、楽しく働くことに結局は繋がっていくと思います。年収を上げたい、尊敬されるポジションに就きたいという動機も否定はしないのですが、なぜ自分がそれを求めているのかを自覚していないと、手に入れた時に「自分って本当にこれが欲しかったんだっけ」となると思うし、それで燃え尽きてしまう人もたくさんいます。いわゆる世の中的な成功というものが、自分にとって本当に欲しいものなのか一度立ち止まって考えてみると良いのではないでしょうか。
未来の生き方を考えることだと思います。SmartHRは労働にまつわる社会課題を解決する企業です。今後、産業構造が変わるぐらい日本の労働力が減っていくことがわかっている中で、我々は働き方を変えていかないといけないし、働き方って結局生き方だと思うんです。我々がこれからどう生きるかということを考え、提案していくことが僕たちのミッションだと思います。
スタートアップで働くということはそういうことだと思っています。自分たちのビジネスを伸ばすこと以上に、どう社会を良くしていくのかを、プロダクトを作りながら考えていけるのがスタートアップで働く楽しさだと思います。
日本を代表するSaaSスタートアップのプロダクトを作り、事業成長を牽引する安達さんにお話をお伺いしました。
PdMのキャリアのトップを務め、誰もが憧れるキャリアを描かれる安達さんに、どうすればCXOになれるのかと質問をさせていただきましたが、その問いをしてしまっていることが誤りであると感じました。自分が本当にやりたいと思えているか、仕事を面白がれているか。面白くするために自分を知ること、深ぼることの努力が出来ているか。そこに経営視点を加え、一つひとつの信頼に応えていく。その積み重ねがCXOになっていくのだと感じました。このインタビューを通じて、少しでも多くの方が自分を知り、仕事を面白くするためのきっかけにつながれば嬉しいです。
山下 太地(フォースタートアップス株式会社 シニアヒューマンキャピタリスト)
EVANGE - Director : Kana Hayashi / Creative Director : Munechika Ishibashi / Interviewer : Taichi Yamashita / Writer : Kozue Nakamura / Editor:Daisuke Ito / Assistant Director : Makiha Orii / Photographer : Shota Matsushima