EVANGEをご覧の皆さん、こんにちは。フォースタートアップスのEVANGE運営チームです。私たちが所属するフォースタートアップスでは累計1,500名以上のCXO・経営幹部層の起業や転職のご支援*をはじめとして、多種多様なビジネスパーソンを急成長スタートアップへご支援しています。EVANGEは、私たちがご支援させていただき、スタートアップで大活躍されている方に取材し、仕事の根源(軸と呼びます)をインタビューによって明らかにしていくメディアです。
"新しい価値交換を、もっと身近に"をミッションに、暗号資産やブロックチェーンの技術を活用したサービスを展開するコインチェック株式会社(以下、コインチェック)。同社常務執行役員、グループ会社コインチェックテクノロジーズ株式会社(以下コインチェックテクノロジーズ)の代表取締役 天羽 健介(Amou Kensuke)氏のキャリア形成、企業選択の軸に迫ります。
天羽 健介(Kensuke Amo)
大学卒業後、商社を経て2007年株式会社リクルート入社。複数の新規事業開発を経験後、2018年コインチェック株式会社入社。主に新規事業開発や暗号資産の新規取扱、業界団体などとの渉外を担当する部門を統括。2020年より執行役員として日本の暗号資産交換業者初のNFTマーケットプレイスや日本初のIEOなどの新規事業を創出。メタバースを含むWEB系新規事業を管掌。2022年6月に同社の常務執行役員に就任。2021年日本最大級のNFTマーケットプレイス「miime」を運営するコインチェックテクノロジーズ株式会社の代表取締役に就任。日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)NFT部会長。著書に『NFTの教科書』(朝日新聞出版)。
きっかけは、当時副業で行っていた事業がきっかけです。
前職の株式会社リクルート(以下、リクルート)でEC系の新規事業をやっていたこと、新卒で入社したのが鉄鋼商社だったこともあり、その経験のかけあわせで鉄鋼のスクラップや鉄くずみなどをBtoBでマッチングするプロダクトを副業で開発していました。
ただし、結果的には私の経験不足もありましたが、そもそも市場がなく、事業を大きくすることができませんでした。
その経験を経て、急成長する産業で事業を行っていて、経営の意思決定を担える環境を探していたのです。
当時、さまざまな人材エージェントと会いましたが、フォースタートアップスはエージェントではなくヒューマンキャピタリストとして、ファーストコンタクトでの会話が「転職しようと思っていますか?」ではなく、「この市場が伸びようとしていて...」と市場の全体感を教えてくれたことが、とても印象に残っています。
コインチェックに関しては、当時あまり詳しくなかったのですが、暗号資産の裏側にあるブロックチェーン業界のとてつもない可能性とその裏側にある技術と話を丁寧に説明していただきました。そのおかげもあり、市場と事業の解像度があがり、話を聞いてみようと受けてみたところ、スムーズに話がすすみ入社する運びとなりました。
自分で独立して何か事業をやってみたい気持ちがあり、短い時間のなかでビジネスマンとして大きく成長できる環境を求めていました。
「人生一回きりなので挑戦してみたい。」という考えもあったのですが、私が中学生くらいの時に親が独立して、経営することや経営者というものが漠然とかっこいいと感じ、志すようになりました。
鉄鋼商社は、当時1人当たり売上高が10億、20億ととても大きく、売上の大きさから裁量権が大きいのではないかと思い選びました。
加えて、商品での差別化が難しく、商品を売り込むよりは自分を売り込まないといけない点が自身の成長につながると考え入社を決めました。
自分を売り込むことであったり、「人」として勝負する点を磨くことができたと思います。
その経験が、現在まだ黎明期のブロックチェーン業界で、金融庁をはじめとしたルールメイキングに携わるステークホルダーのみなさまとコミュニケーションをとる上では、商社時代の営業経験が活かされていると感じます。
ただし、当時の未熟な自分としては壮大なプロジェクトにおいて、自分の介在価値を本当に発揮できているのか、自分が世の中に対してどのような影響を与えられるかが気になり、転職を考え始めました。今あの時を振り返ると成長を実感するためにもがき、生き急いでいた気もします。
合計で11年ぐらいいたのですが、前半は広告媒体や求人媒体の営業、後半は新規事業のマーケティングや事業開発系の仕事を担当していました。
多くのことを経験できましたが、特に営業時代に感じた無力感が、大きな気づきを得られた機会となりました。
「絶対やってやる」と意気揚々と入社したのですが、蓋を開けてみると担当したクライアントの期待値調整もできず、クレームになってしまい、上司が横で謝っている姿を私は見ていることしかできない状況で無力感を感じたのです。
そこで気づいたことは、当時営業として、どうしても売りたい気持ちが出ていて、クライアントのために考えることとのトレードオフになっていたことに気づきました。
その気づきから、何もできないかもしれないけど、目の前のクライアントのために出来ることを全力でやろうと決心した結果、徐々に「売りたい」という気持ちよりも、「どうすればクライアントの事業が成長するか?」という視点で考えられるようになった結果、数字もついてくるようになりました。
これまで営業しか経験してきておらず、キャリアにおいて偏った筋肉の付け方をしていると感じたことです。
自分で事業をやろうとした時に、営業はあくまでひとつの役割でしかなく、プロダクトを作ったり、WEBマーケティングであったりと、全方位にバランス良く筋肉をつける必要があると考えたのです。
そのようなことを考え始めたタイミングで、新規事業系の部署で募集があり、手を挙げて異動しました。
全然違いました。
1対1で対峙して深く入り込んでいく営業系の立ち回りに対して、企画系職種に特に必要なロジカルシンキングや構造的な整理をそれまであまりしてこなかったこともあり、異動した時は30歳くらいでしたが、20代のメンバーにロジカルシンキングの本を借りて、1から勉強し、感覚ではなく数字で表現することを徹底的に叩きこみました。
鉄鋼商社、リクルートでの営業どちらにも共通しますが、相手が発した言葉の裏側に何があるのかを感じとるスキルは、今に活きています。
現在のコインチェックでは、金融庁や業界団体をはじめとする多くのステークホルダーと様々な対話をしますが、本音の部分を理解し、寄り沿って一緒の方向を向くコミュニケーションは営業経験があったからこそだと思います。
新規事業開発では、全方位で様々な変数があり、立体的な構造的把握力をつけることができました。
ブロックチェーン領域では、前提として様々なルールが整備されている最中で、且つとにかく変数が多く状況がどんどん変わっていくので、常に変わることを前提に俯瞰して全体構造を捉えることが重要です。
法律、会計はもちろんのこと、グローバル動向から社外と社内で、多くのステークホルダー、多くの変数を同時並行で調整しながらプロジェクトマネジメントをしていきます。
その点、リクルートの新規事業開発で様々な変数をとらえ事業を前に進めていく経験は今に活きています。
成長市場だからこそ、たくさんの成長機会に恵まれますし、自分自身が仕事を頑張ることによる成長に加えて、市場の成長も掛け合わさって加速度的に成長できるイメージが一番近いです。コインチェックでの4年間は、まさにそのような経験ができています。
BizDevとして入社したのですが、当時のコインチェックは事件直後で様々な体制整備が必要でした。
社内一丸となり、できる人ができることをなんでもがむしゃらに取り組んでいく状況で、私の最初の仕事はライセンス取得に向けて、社内の管理体制の構築をしていましたが、本当にライセンスを取得できるかわからず、終わりが見えない霧の中を進み続けるようでした。
そこから1年後には、無事ライセンスが取得でき、攻めに転じられる状態になったため、どこよりも多くの通貨を選択できる状態にすべく走り始め、当時の経営陣にかけ合い自ら新規部署を立ち上げ、金融庁や業界団体との折衝も経て、国内でもっとも取扱い通貨を多くすることに成功しました。
2019年後半くらいからは、事業の多角化に向けて、NFT事業を行う意思決定を促し、2021年2月にグローバルユーザー向けのNFT取引所運営会社のM&Aを主導、これとは別に3月に自社でコインチェックと暗号資産取引所を併設する形で国内ユーザー向けの『CoincheckNFT(β)』をオープンしました。
NFTと親和性があるメタバース、そしてその先にあるWeb3へ向けた構想を考えています。
Web2.0では、GAFAMのプラットフォームの仕様を理解し、それに合わせて舵をとることが大事でしたが、メタバースでも同じようなことが起こるとも思っています。
そのため、次世代SNSと言われているメタバースは、これまでのように1強ではなく、複数の主要なメタバースが生き残り相互に接続すると言われているので、コインチェックとしても複数のメタバースと連携していくと同時に、そこにNFTも発行して、どのようにコインチェックのNFTにマネタイズするかを模索しています。
Web3については私の中で考えを巡らせている状況です。
Web3では企業やプロジェクトがトークン(暗号資産)を発行し、トークンホルダーを巻き込んでコミュニティを共創しながらビジネスを発展させていきます。ユーザーの情報や各種取引などの価値移転も中央集権的な企業が仲介するのではなく、1人1人がデジタルウォレットを保有しP2Pでおこなわれていきます。
その中でコインチェックとしてどのような経済圏をつくっていくかは、未来の話なので正解はありませんが、誰よりも考え抜いて解像度を上げていき、ユーザーにとって価値のあるサービスを展開していきたいと思います。
当初は自分の仕事の対象が目の前の人だったところから、市場、そして社会へと対象が広がっていきました。
入社当時は社内関係者がメインだったところから、NFT事業が開始してからは、市場を活性化していく動きから、ユーザーや事業者が知らず知らずのうちに詐欺にあったり、法令違反を犯してしまわないように、業界のキーマンを巻き込んで日本暗号資産ビジネス協会のNFT部会を立ち上げ、「NFTガイドライン」の策定や『NFTの教科書』も出版しました。
誰よりも早く1次情報を入手し、解像度を高くして、考え抜くことです。
今では、NFTもブームとなっており、後押しの風が吹いていますが、NFT事業立ち上げ当時は本当にNFTがブームになるかは懐疑的な部分はありました。
ただ、答えはわからないけれども、誰よりも1次情報を入手し続けて、見えないなりに未来の解像度を最大限高め、旗を立てて方向を指し示すことが必須だと考えています。
なんとなくカッコいいと感じていたものから、経営者は誰も答えを知らない土地に旗を立てる「役割」であると、変化がありました。
今後でいうと、ブロックチェーンや暗号資産、NFT、メタバースという最新のビジネストレンドに向き合い、驚きがある新しいものをどこよりも早く分かりやすいUIUXで提供し世の中により良い価値を提供していきたいです。
しかし、それだけでは方向性を誤る可能性もあるかなと思っています。
少し変な話になるかもしれませんが、暗号資産も日本円やドルなどの各国の法定通貨と近い位置にあるので、貨幣の役割や資本主義について考えさせられる機会も多いのですが、資本主義やテクノロジーの進化が必ずしもユーザーの幸せに直結するとは限りません。
資本主義やテクノロジーの進化を前提とするだけではなく「人々が本当に幸せなのか?」、「本当の豊かさとは何か?」という本質的な問いを客観的に自らにあえて投げかけながらサービスを展開していきたいと考えています。
この業界はとにかく拡大と変化のスピードが早く、3ヶ月先が読み切れない業界です。常に選択肢がいくつもくらいあり、その選択肢のどれが正解か見えない中で可能な限り解像度をあげて意思決定をしていかないといけません。
そういった、とても不確実性が高い業界でチャレンジしていきたい方は是非一緒にチャレンジしていけたらと思います。
EVANGE - Director : Koki Azuma / Creative Director : Munechika Ishibashi / Writer&Editor : Koki Azuma / PR : Megumi Miyamoto / Photographer : Takumi Yano