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箱崎 竜太郎(Ryutaro Hakozaki)
ラクスル株式会社 執行役員テクノロジー本部 ラクスル事業 システム統括部 統括部長
大学卒業後、健康保険や金融分析サービス等にエンジニアとして従事。その後、BtoBプラットフォーム提供企業で新規事業のシステム開発部門を統括しつつ、店舗運営サービス提供のJV代表を務めた後、2024年にCore Printing ECのDirectorとしてRAKSULに入社。現在は執行役員 兼 ラクスル事業のシステム統括部長を務める。
テクノロジー本部 ラクスル事業 システム統括部のVPoEという立ち位置になります。ラクスルは、新しいことにどんどんチャレンジしていこうというポリシーを持っていますが、その上で開発組織の安定性や持続性を底支えしていく必要があります。
ピープルマネジメントというのは場当たり的な対処を繰り返すケースが少なくありません。その人をモチベートすることや、話をよく聞くこともとても重要ですが、それよりも前に必要な組織のプロセスやガイダンス、組織設計を立て付けることが職場環境を良くしていくと思います。人を集めて必要な所にスタッフを配属させることで事業を広げていく。そういった環境面の整備に主に力を入れています。
元々はテクノロジー分野のスペシャリストとしてキャリアを歩んでいましたが、一番大きな転換点は前職の株式会社インフォマート(以下、インフォマート)での経験だと思います。システム開発部という部署にずっと所属していたのですが、そこからいわゆるコーポレートディベロップメント部門に異動した時に初めて、事業作りを経験しました。テックから入っているので、ITのデューデリジェンスや協業企業との共同研究や実証実験を行うラボの部門に携わりましたが、サービスの成長やプロダクト戦略という部分に密接に関わるようになったことが一番大きな転換点だったと思います。
自身の希望でラボ部署を立ち上げ、その後1年ほどしてコーポレートディベロップメント部門に統合された形になります。これはエンジニアっぽい話になるのですが、僕は物作りが好きですし、早く上手に設計することに強みがあると考えています。自分のアウトプットを周りに褒められると嬉しくなるので、もっと勉強してさらに技術力を上げていくという循環がずっと続いていました。気付いたら、チームリーダーやテックリードを任せてもらえるようになっていたのですが、インフォマートはプラットフォームで企業の役に立つサービスを展開している会社だったので、せっかくならエンジニアの仕事とは異なる切り口からも社会にインパクトをもたらしたり、お客さまに価値を届ける仕事をしてみたいと思いました。
あまりポジティブな表現ではないのですが、エンジニアの仕事は、時にはどうしても社内受託のようになってしまう側面があると思います。そのような状況下でどうやってエンジニアとしてのプレゼンスを出せるのかと考えた時に、エンジニア出身としての強みを活かしたプロダクトマネージャーになったり、事業側のBizDevとして活躍したりすることで、エンジニア自身のプレゼンスも上がると考えました。そうして、「共同研究やラボに関わって、事業側の知見も身につけたい」という希望を出しました。
すごく強い志があったわけでは正直無いのですが、自分としては良いものを作ったつもりでもお客さまや世の中にインパクトを出せないまま消えていくということが、周りでもたくさんありました。「せっかく作るのだったら、自分が作るものは自分で決めたい」と思うようになったことがきっかけです。自分が決めるということは当時の役割では難しかったことから、テックの知識を活かしてBizDevのポジションやラボの部門でその裁量を持てるようになりたいと考えました。
苦労はあまり感じませんでした。大前提、システムの人と事業開発や営業の人との間に一定の距離感はありました。でも、会社を成長させたい、良いプロダクトを出したいという想いは一緒なんです。そこに歩み寄りが無いと衝突が生まれると思うのですが、僕は運が良く好意的に受け取ってもらえたこともあり、リサーチでの得意先訪問に同行させてもらったり、事業やドメイン知識を吸収したりすることが出来たのでありがたかったなと思います。
僕が取り組んでいたのは、全社プラットフォームの領域における事業戦略で、抽象的な戦略構築から、具体的に何を作るかというところまでを担当していました。極論、Bizの人はBizの人、エンジニアの人はあくまでエンジニアの人なので、「両方見るって孤独だな」と感じると同時に話が噛み合わない場面にぶつかりながらも、両方の考えをすり合わせていくことで自分の視野も広がったように思います。
携わった事業の中でも、特に飲食業界でのデータ活用は学びが多かったです。卸業者さんや飲食店の方に課題を直接聞く機会がすごく多くて、一緒に同行していたコーポレートディベロップメントの執行役員の方が飲食業界の営業やSaaSの営業を長らくやってきた方だったので、たくさんのインプットをいただきました。
一緒に課題解決していこうという話をすれば、当然業界の課題や具体的なペインポイントなどを何回も繰り返しインプットされるので、問題意識を持たなきゃダメだという意識になります。エンジニアの組織にいる間は、事業部から急に「今日これをやってください」とお願いされたりして、なんでだろうと思っていたりしましたけれど、立場が変わってくると、売り上げの責任とか計画を全部背負っている分、エンジニアに「見積もりは1ヶ月待ってください」と言われたらたまったもんじゃないですよね。このような経験を通じて、両方のそれぞれの立場があって、どちらが正しいというものでは無いんだなということを痛感しました。
前職では複数の新規事業に携わっていましたが、そのうちの1つはジョイントベンチャーを設立して、代表も務めました。その頃にはマネジメントのポジションに就いてから長く、現場で手を動かすことはほとんど無くなっていたため、純粋なエンジニアとしての強度を再び上げていくよりもプロダクトマネジメント、エンジニアリング、事業開発、営業がどういうものなのかを出来るだけ経験し裾野を広げていくことに注力していました。
プロダクトの開発、プロダクトのグロース、実際にシステムの開発と運用、保守を効率的にやっていくことに注力していました。なので経営という視点で言うと、サポートと営業活動はインフォマート社に委託していましたから、どっぷり経営者という感じでは無かったと思います。毎月の売上を眺めて、何が足りないのか悶々と考えて...みたいなことはありましたけどね。
システムへの投資やシステムの持続性といったことを、会社内で折り合いをつけるということはライフワークのように取り組んでいたのですが、そこは一番難しいことだったと感じます。また、これから先も取り組んでいかなくてはいけないことだろうなと思います。
言い方や伝え方1つで印象が変わる部分なのですが、それが上手くいかないと「開発中に次から次へと要望が来て、やれる部分はやってるのに、なんで遅いと言われるのだろう?」といった開発からの不満や、「コンテを起こして開発に渡しているのになぜ進まないの?」といった事業部側からの不満につながってしまうと思います。それを説得し続けるということが難しい部分ですね。
テクノロジーサイドの肩ばかりもってしまうと、事業部側や営業も良い商品を出したいと思っているだけなので、本質的なことは伝わらないですよね。SIerやエンジニアはよくスコープ(範囲)という言葉を使いますが、スコープというと区切っている感じがすごく出てしまうので事業側の人と話す時には使わないようにしています。そういった伝え方の工夫や折り合いをつけること以外だと、苦労したことはあまり無いです。失敗というものはつきものですが、成功確率を上げるための努力はします。リサーチして反省してやり方を変えていって色々トライしますが、基本は球数だと思うのでやっていくだけですね。
テックリード系の技術職から始まって、基盤をやって、業務開発、横断施策でのデータ活用、社内のラボ部署設立、共同研究など様々なことを経験させていただきました。最終的には、事業開発やプラットフォーム戦略、JV代表と約13年間でたくさんの経験を積むことができました。その中で、他の企業ではどの様な仕事が出来るのだろう、違う世界を知りたいなという気持ちが芽生え、転職を意識し始めたことがきっかけです。
正直、印刷の会社と聞いた時はあまり興味が無かったです。ラクスルのような知名度がある会社に興味を惹かれたミーハーな部分と、企業活動や営業活動に欠かせない印刷物を作っているということで社会的インフラを支えている部分には興味を持ちました。正直なところ、「まずは話くらいは聞いてみよう」というくらいのテンションでした。
改めてラクスルの印刷事業の仕組みを説明してもらうなかで、買ってくれるお客さまだけではなく、広義で言う生産者、印刷工場を繋いでいく、シェアリングしていくという側面があり、社会的意義が非常に大きいなと思いました。また、「プラットフォーム的な世界を横串しに考えていこうとしている会社です」と言われて、様々なサービスを立ち上げつつ、M&Aなどで事業拡大しながらプラットフォーム的思想を持って成長していきたいという構想にも惹かれました。プラットフォーマーという所は自分のこだわりに近い部分ではあったので、非常に魅力的でした。
今年の9月に、ラクスルが金融プラットフォーム事業に新規参入することと、中小企業向けのテクノロジープラットフォーマーとして成長していくという新たな方針を発表しました。企業を経営する際に、「RAKSUL ID」さえ持っていれば、印刷物のみならず、梱包材や店舗用品、マーケティング関連サービス、さらには金融サービスまでもワンストップで利用できるという構想です。「RAKSUL ID」があれば企業活動に必要なものを何でも揃えられ、課題解決が出来るという世界を実現したいと思っています。
ラクスル事業本部 本部長の渡邊さん、CPOの水島さん、ラクスル事業本部 CTOの岸野さんとお話しさせていただく中で、言語化できないほどの優秀さ、凄さを感じました。こんなに優秀な方々がいる会社ならば、きっとプラットフォーム構想の実現性が強いんだろうなと思いましたし、そんな会社でちょっと揉まれてみたいという気持ちがありました。現在も優秀なメンバーがどんどん入社してきて、そんなみなさんをどう活かして、組織としてオーケストレーションを取れるかというのは別の課題もありますがすごく刺激になっています。
個々の優秀さが想像以上だったと思います。先ほど名前を挙げた経営陣もそうですが、現場にいる20、30代のエンジニアの方々全員がとても優秀です。どこの会社でも全体の5%にずば抜けて優秀な方がいるとしたら、ラクスルでは全体の90%がそのような方々で構成されている感覚です。組織を今以上に整え、サステナブルな環境に進化させていければ、より良い開発チームと事業体制が取れるだろうなと確信しました。
事業が成長した時に、エンジニアがちゃんと喜べる組織かなと思います。本当は成長させたい気持ちがあるのに施策が増えてきた時に「余計なファクターが来たよ」と受け取られやすいので、エンジニアがどんどん新しいことにチャレンジしていって、それをフォローできて、 事業の成長を一緒に喜べるような開発組織がサステナブルだと思います。同時に、社会に価値を提供する企業としては、持続性も非常に大事なので、その意味では、極端な話、人が半分入れ替わっても継続するような組織が好ましいと考えてもいます。情報やノウハウを人ではなく、きちんとチームや場所に紐づけることができれば、あながち絵空事でもないと思ってます。
一定の裁量を持たせてもらえるスタートアップならではで、そのために必要な支援を申し出てくれることがエンジニアとしてはやりがいを感じるのではないかと思っています。この10月に2名のエンジニアが同じ部署にジョインしてくれたのですが、フロントエンドの開発の体験が悪いと申し出た時に、周りの先輩エンジニアや関係する部署が支援をしてくれるんですよね。
多くの会社では何か新しいことを始めることはできるけど、意外に支援がないまま開発をすることってよくあると思っています。入社して3回ぐらいは打ち合わせの機会を設けてくれたけれど、4回目ぐらいから無くなってしまうとかですね。そうならないように支援を必ずセットでやりますよという環境がラクスルの良さだと思います。
あとは会社のフィロソフィーというか、「印刷のラクスル」から、「企業活動に必要なことが全て出来るラクスル」というプラットフォームを構築していくぞという気概に魅力を感じています。
CTO、VPoEなど「良いポジションを渡せますよ」ということを謳っている企業は他にもたくさんあると思うのですが、ラクスルは仕組み上、内製での立ち上げとM&Aを繰り返して事業部をどんどん作っているので、CTO、VPoE候補が増えていかないとより非連続な成長が出来ないんですよね。組織がうまくいって、自分より組織マネジメント上手い方がいたら、その方にやってもらった方が絶対に良いと思っています。
ラクスルに限らずではあるとは思いつつも、今せっかくいい機会をいただいているので、自分がやれることはやりますという想いです。優秀な方にどんどん入っていただきたいので、組織のプロセスをもっと整えていきます。複数のサービスを「滑らかな顧客体験」で繋いでプラットフォーム化していく世界が実現され浸透されるまで一緒にラクスルで頑張っていきたいです。
あまりいい回答では無いかもしれませんが、技術強度が高かったのはあると思います。「色々やりたいです」と何も持たずに踏み出した人を相手にはしてくれないけど「こういう武器持っています」と見せていけば話も聞いてくれるし、外にも送りだしてくれる。僕の場合は完全にその流れだったと思います。
そして、その武器をちゃんと磨いていくことですね。磨き続けていると、どこかのタイミングでこれ以上磨くと非効率になってくるので、そこからは武器の種類を増やす方向に転換する場面もあるかもしれません。ただ、得意な武器が無いまま種類を増やしてもどうしようもないということもあると思うので、そこは自分なりの武器を持つことが大切かと思います。
何かが前に進んでいるという状態が自分にとって一番良くて、何も物事が進んでいないことが一番ストレスなんです。そういう意味で言うと、僕は強烈なリーダーシップというよりもフォロワーシップに近いのだと思います。
ラクスルという会社は、みんながファーストペンギンのような感じで、どんどん飛び出していって、結果を出したらすごく評価するというカルチャーの会社だと感じています。一方で、組織も大きくなってきて、開発のサステナビリティや、チャレンジを継続的に出来るような組織が整っているかどうかと言われたら、そこはこれからのチャレンジだと思っています。僕自身は、本質的には新規事業をやっていた方が好きなのですが、今はその欠けているピースの部分に注力したいと思っています。会社や事業が前進するのであれば役回りは二の次なのかもしれないという想いはあります。これらは今必要なプロセスであり、そこのプロセスが整ってきたのであれば、その先で僕も新しいチャレンジをしていきたいと思います。
エンジニア、事業開発、営業など、それぞれに立場があると分かり始めてからは明確にそう思っています。テックリードをやっていた頃は視野が狭いので「この作り方の方が良いと思います」という感じで上に噛み付いていたタイプでした(笑)。しかしその箱から飛び出したら見える世界がありました。それぞれの立ち位置があって、どちらが正解というよりも全部が上手くバランスよくはまらないと、企業は成長しないなと気付きました。
「色々なチャレンジが出来る」というのは、みなさんおっしゃられると思うのですが、実際にそのチャレンジが大きくて、裁量も大きいかどうかが大切だと思っています。今まで身につけてきた経験値を活かして、もっといい道を再現するというか、改良出来ることが大きな喜びだと思います。
さらに、今までの経験に固執せずアンラーニングして、新しいスタートアップのドメインやカルチャーに触れて、自分の多様性や武器を増やしていける非常に刺激的な場所なのかなと思っています。
SaaSという言葉が一般的ではない時からプロダクト開発に従事し、日本の上場済みSaaSにおいてARRがTOP10に入るインフォマートの開発をリードされてきた箱崎さんにお話をお伺いしました。
最も印象的だったのは、失敗しないでコツコツとやっても評価されにくい、強引にチャレンジをして、壮大にコケても、それを評価してくれる人がいて、より大きな仕事を渡してくれる、とお話をされていたことでした。複数の新規プロダクトを手掛けてきた中で、外からみるとうまくいかなかったと思うものもあるかもしれませんが、それは挑戦者にとっては学びであり経験。失敗や成功だけではなく、その挑戦の回数こそが急成長を続けるラクスルにおいて執行役員を担われている理由だと感じました。この記事をきっかけに、挑戦をする人が少しでも増えてくれると嬉しいです。
山下 太地(フォースタートアップス株式会社 シニアヒューマンキャピタリスト/マネージャー)
田村 金太郎(フォースタートアップス株式会社 ヒューマンキャピタリスト)
EVANGE - Director : Kana Hayashi / Creative Director : Munechika Ishibashi / Interviewer : Taichi Yamashita, Kintaro Tamura / Writer : Kozue Nakamura / Editor:Daisuke Ito / Assistant Director : Makiha Orii / Photographer : Shota Matsushima