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日本が世界に誇るエンターテイメント産業。その領域でfacebookのスタートアップ支援プログラムに採択されるなど、世界から注目されるスタートアップが株式会社EmbodyMe(EmbodyMe, Inc.)です。緊急事態宣言が発令され、デジタルトランスフォーメーションの波が前倒しで訪れる中、時代の波を捉えたプロダクトをリリースするなど、注目の集まるスタートアップの1つ。今回は、COOの金 燕(Karen Jin)氏の意思決定の軸に迫ります。
金 燕(Karen Jin)
北京大学在学中にキヤノンの国際Student Internshipプログラムで初来日。2006年から10数年間リクルート社をはじめとしたアジアの企業を中心に、法人営業、インターネットモバイル広告、ビジネスディベロップメント、国内外ゲームパブリッシング、投資などの面から幅広く支援を行う。
中国の”The Great Wall Club”の日本支社の代表として参画、会社の立ち上げと事業開拓に専念。CMGE、360および1つの事業譲渡を経て、2019年に日本に移住し、EmbodyMeに参画。中日韓英の4ヵ国語と実務経験を武器に、新たなステージで、日本とアジア諸国のビジネス連携、事業開拓を行っています。
-- 金さん、本日はよろしくお願いします。まずEmbodyMeの事業と、COOとしての役割を教えていただけますか。
Embodymeはディープラーニング(深層学習)を用いた映像生成技術などを開発するスタートアップです。ディープラーニングを用いた表情や顔の詳細な形状の認識技術、「敵対的生成ネットワーク」(Genera tive Adversarial Networks。以下、GAN)を用いた画像生成技術を有しています。
例えば顔認識ですと、従来は2Dで70点ほどのポイントしか認識できなかったのですが、弊社は3Dで最大50000点、より詳細な顔の形状や表情が認識でき、PCやスマートフォン、IoTデバイスなどあらゆるデバイスで動作することができます。また、動かす画像とユーザの顔の認識、GANで画像を生成する処理をすべて0.01秒の間に行い、リアルタイムでの動作を実現しています。
主軸サービスは4つあります。直近でローンチした”xpression camera”も主力事業の1つ。オンラインMTGで自分の自慢の写真があれば、その写真に表情をリアルタイムで載せてオンラインミーティングに参加できるんです。ユーザーはお化粧もいりません(笑)。
COOとしては、CEOのパートナーとして会社のビジョン、企業文化の設計から事業戦略、資金調達、組織設計、人材採用、ビジネス提携まで、様々な事業成長に関する業務に深く携わっています。
-- お化粧がいらないのは便利そうです!新型コロナウィルス影響が始まってからプロダクトを作り始めたのですか?
企画自体はその前からあったんです。新型コロナウィルスの影響で利用者数が増え、「映像でコミュニケーションする時代が来ているな」と体感できたので、本格的に開発に乗り出しました。ローンチしたのは2020年9月21日、11月中には世界的にとても有名な”Product Hunt”というサイト(いいプロダクトを探すハンターが集まるサイト)でデイリーとウィークのNo.1プロダクトという称号を獲得しました。
-- EmbodyMeは日本だけでなく、海外でも話題になっていますね。
そうですね、海外からの反響が大きいです。初めは日本だけだったんですけど、いまはスペイン、ロシア、インドや南米でも「画期的なサービスを日本のスタートアップが提供し始めた」とメディアに取り上げていただいて、嬉しいです。
-- 社内も様々な国籍の方が在籍されていると伺っています。
20人規模の会社ですが、国籍もアメリカ、中国、日本、タイ、インド、カナダなど、多国籍な社員が在籍していますね。
元々、グローバルマーケットを意識しており、Vtuberのようにゲームの世界観に合ったキャラクターになりきり、配信ができるような機能も実装しています。今後は”xpression camera”を使って自分の欲しい二次元キャラクターになりきってビデオ配信ができたらなと思っています。
目指している将来のファンクションのために、人の音声にあわせて表情を動かすだけでなく、話し手の感情を音声から判断し、抽出させることに取り組んでいます。その結果をジェスチャーや身体全体の動きの表現につなげることのが次のステップなんです。
-- Embodymeはどんな未来を目指して、そこまでの技術を実装されているのでしょうか。
ビジョンは、”AI技術をベースに誰もが目に見える世界を作る”こと。目に見えるすべてのものをAI技術を使って自動的に生成させる。そうすると、CGの代わりになります。CGは1フレームであってもすべて手作業で行わなければいけないので、時間とコストがかかる。弊社が目指しているのはビデオ業界の改革なので、今はCGでしか再現できないあらゆるものをAI技術を使って誰でも作れる世界にしたいというのが、これから目指すところです。
-- 事業のお話をありがとうございました。次に、金さんのキャリアについて聞かせてください。北京大学を卒業されたあとのファーストキャリアは?
まず、キヤノンでインターンシップをしました。大学で経営やビジネスを学び、日本は”将来の憧れがあふれる技術”を持つ国だと思っていたんです。NPO法人AIESECという学生向けの国際インターンシップ組織を通して日本企業に応募しました。スウェーデン、ノルウェー、アメリカ、フランス、ドイツ、世界中の優秀な学生たちが集まっていて、彼らと一緒に素晴らしい技術を持った企業の中でCRMの勉強をしながら、調査やレポートを作成しました。この経験が、自分が触れた初めてのグローバルカルチャーです。
-- そのなかで、新卒はリクルートに入社。どのような考えで選ばれたのですか?
ベンチャー企業を立ち上げる方はリクルートの営業出身の方が多いと聞いて入社しました。実際働いてみると、”サバイバル”な感じです(笑)。人生の中ではとても重要で大事な経験でした。それ以降、実は3度の経営者としての経験を積みます。
-- 3度の経営!どのようなビジネスを立ち上げられたんですか?
1社目が”The Great Wall Club(GWC)”、モバイルインターネットのビジネスプラットフォームサービスを世界で展開している会社に1人目の日本の社員としてジョインしました。日本ではまだ何もなくて、新しく事業を展開しようとしているタイミング。ミッションはサービスや企業の認知を獲得することと、会員数を伸ばすことの2つでした。
立ち上げ期の会員は、DeNAやmixiやGREEといったゲーム会社がメインで、当時メンターになってくれたのが夏野剛さんです。夏野さんは「iモードの父」とも呼ばれるほど、モバイルインターネット業界における巨匠のような存在。モバイル時代の先頭を走る、優しくて情熱が溢れるリーダーシップをお持ちの方で、草創期に尽力していただきました。今も感謝しています。日本支社を立ち上げた後は、GWC本社で韓国と日本のマーケット開拓に関わりました。
-- 初めての事業立ち上げは苦労も多かったのではないかと思います。どのようなモチベーションで乗り越えられたのですか。
2009年ごろから中国のモバイル技術も激しく変化していました。技術やサービスはまだ先進国には追いついていないんですけれど、CEOの文厨さんが「この会社をグローバル・モバイルインターネット・ビジネスプラットフォームとして発展させたい」と巨大なビジョンを描いていたんですよ。
私は、この巨大なビジョンに対し、中国人として手伝わなければという使命感を持ちました。リスクが大きいなとは思いましたが、「彼が描いている未来像をスタートするなら、日本が最も実現可能性が高い」という確信があったんです。リクルート、Marketing Resource Centerの2社で経験を積み、大きなクライアントと一緒に仕事をすることで自信がついていたので、次は新しいことに挑戦してもいいかなと、飛び込みました。
-- そのあと2社、起業ではなく事業会社で経験を積まれています。
GWCを退社した後、ゲームパブリッシングを展開するCMGEにて、社長室統括及びモバイルゲームパブリッシングの業務全般に携わっていました。海外のGlobal IP交渉や世界最高レベルesports大会「WCG」との提携も積極的に取り組んでいましたね。
その後、投資やファイナンスに興味があったので、ゲーム領域への投資業務を行えると聞き、コンピュータセキュリティのプロダクトなどを製造・販売しているQihoo 360に入社しました。
主には投資したゲーム関連企業のマネジメントをしていました。あらゆる情報とリソースを利用して投資先ゲーム企業の成長を支えながら、バリュエーションアップとエグジットをサポートしていました。
ゲーム業界はライフタイムバリューが非常に短い。自分がジョインしている時代はサービスインして、早ければ半年以内に終了するゲームもあった。3か月で元が取れないと損してしまうという世界です。そんな環境なので、投資した企業が求めているリソースは無限にありました。
例えばトラフィックを上げるために投資元のユーザーから誘導したり、次のラウンドのためのファンド・投資家を探したり…何が必要で、何をやるのかを考えるのは全部マネジメントの仕事なんですよね。この2社で蓄積したノウハウは、後ほど独立したときにとても役立ちました。
-- 難しい業界であることは自覚されながらも、次のキャリアでは同じゲーム業界で起業されていますね。
2013年から2015年中国のモバイルゲーム産業は急成長を遂げていて、自分も前職で蓄積したゲームパブリッシングノウハウと人脈を生かして何かできるのではないかと2015年から考え始めました。人と接するのが大好きで自然に友達が出来るタイプだったので「ゲームのパブリッシング業務を行う会社を立ち上げたいんだけど、興味ある?」と私が一緒に働きたいメンバーから順番に口説いていきましたね。
中国国内と海外のマーケットを同時に狙い、それぞれ違う事業戦略を立て、ゲームパブリッシング事業をスタートしました。中国では、”WeChat” と ”Weibo” 上に大学生に特化したモバイルゲームプラットフォームを開発・運営していて、海外マーケットでは、中国モバイルゲームの海外代理権を獲得し中国以外の国と地域にパブリッシングするサービスを提供しました。
8人〜10人の小規模のチームでしたが、1人で複数の仕事を掛け持ちしながら、ゲームコンテンツの開発からパブリッシングまで手かけていました。2015年から昨年の春まで、5年くらい事業をしていましたが、日本に住むことになって事業譲渡をしました。
-- 日本に戻られたきっかけを教えていただけますか。
主人が日本と中国の2カ国をまたぐ会社で働いており、日本で仕事をすることになったためです。子供と家庭優先で日本に住むことにしましたが、自分も日本で新しいキャリアをスタートしてもいいんじゃないかと思ったのが、2019年の4月です。
-- お会いしたのは、ちょうど一年前ですよね。最初に会ったfor Startupsの弘中寛太と池 紫野はどんな印象でしたか。
最初は、お若く見えて、新卒かもしれない……この人たち信頼できるの?!と正直思いましたが、話すうちに知識の幅と深さがベテランだと(笑)。紹介されたのは、XR関連の企業とEnbodyMe。自分の経験が生かされるのはゲームの企業でしたが、AIって新しいなと興味をもちました。
AIという言葉を耳にしたことはあるものの携わるなんて想像もしていなかったのですが、ゲーム産業の革新にXRやAI技術といった選択肢も見えてきたタイミング。これからPCゲームとモバイルゲームに続き、必ず新しいスタイルのゲームが生まれてくると考え始め、もう一度トレンドの先を走ることを決心したのです。AI技術は複雑になりがちですが、CEOの吉田は、とてもわかりやすく説明をしてくれました。
-- EnbodyMe創業者の吉田さんは、当時技術者として起業をしていますから1人目のビジネスメンバー募集という感じだったんですよね。
はい。私は入社してから気づいたんですけど、非エンジニアは私1人だけ……。最初は大変でしたし、いまも大変ですけれど(笑)でも、毎日わくわくしています。
-- 大変なイメージがある未経験業界への転職でしたが、EnbodyMeに行こうと思った、最後の決め手を教えていただけますか。
吉田と私との相性がよかったです。彼が完全にエンジニア系の起業家で、私はどちらかというとビジネス寄り。彼が私のチカラを求めていました。過去、自分が起業した会社で一番失敗したなと思ったのがCTOがいなかったことだったんです。だからこそ、EmbodyMeではお互い補える関係になれると思いました。
面白いのが、吉田はエンジニアのなかでもよく喋れるタイプなんですよね。経験上多くのエンジニアと接触してきましたが、やはり黙々とコーディングされる方が多くて、ディスカッションには物足りなかった。吉田はその中でも「よく喋れるな~!」と思いました。
喋れるというのは、自分の意見をちゃんと伝えることができるじゃないですか。そうすると、悩んでいること、求めていることがよくわかる。これが通じないと、パートナーとして成り立たない。いい商品を作って売り出せばいいだけではなくて、組織体制や今後向かっていく方向性など、全てディスカッションしながら決めていかなければいけないんですね。1人で決めると、実は全然うまくいかないんです。2人で納得する方向性に持っていかないと、ハッピーにはならない。
-- 吉田さんとの相性、特にコミュニケーションが大きな決め手だったんですね。
コミュニケーション能力ってすごく大事だと思います。親にも、「どんな状況においても、自分のことを主張できる人間であってほしい」と育てられました。
-- 現在、中国はIT産業の最先端。時代の大きな波を直近で見られてたどのように感じられましたか。
GAFA時代を主導したのがUSAだとすると、これからの世界IT産業の最先端を走るのは中国ではないかと思っています。昨年大話題になったHuawei以外にもBAT3M(Baidu, Alibaba, Tencent, 360, Xiaomi)や世界最大手ドローンメーカーのDJIなど、21世紀に入って世界に影響を及ぼすような大手IT企業が続々と誕生しました。
その影響を受けて、中国国内のインフラをはじめ経済、社会、文化、教育などは今までにないハイスピードで日々変化しています。生活の変化の例を挙げると、決済手段の移行、完全なキャッシュレス化の実現です。飲食店や商業施設といった一般店舗での決済だけでなく、行政や税務など公的機関でも積極的に取り入れ、ほぼスマートフォン一つで生活ができるようになっています。
-- 2カ国のスタートアップ・大手企業を経験された上で、「日本のスタートアップがもっとこうなっていったほうがいい」というアドバイスなどはありますか
もう少しアグレッシブに挑戦してほしいなという想いがあります。中国はどちらかというと、思いついたら行動に移すみたいな感じですごくアグレッシブ。
日本のスタートアップはまだEmbodyMeしか経験していないのですが、限られた見解から言わせてもらうと、置かれている市場環境や金融環境、そして言語環境の厳しさを感じます。プロダクトやサービスの提供範囲をほぼ日本の市場に限っているとか、VCから調達できる金額の少なさと日本語以外の他言語対応に弱いなどガラパゴス化している側面を感じます。
-- 日本と中国、どちらも経験されている金さんとして、かつて憧れたような日本の姿って取り戻せると思いますか。
日本は昔から独特の ”職人” 、”匠人” 文化のもとで、トヨタ、ソニー、松下電器、三菱電機、日立製作所、キヤノン、任天堂など世界に知られている有名企業が続出してきました。常に新しい技術へ挑戦しながら、より便利で高品質のプロダクトやサービスをひたすら工夫する「匠人」精神はスタートアップにも通用すると思います。これは日本以外の国々が有していない日本だけの強みであると思います。DX化の怒涛な変革のなか、どんどん新しい物事に真剣にチャレンジしていくと日本の未来は必ず変わっていくと思います。
-- キャリアの選択の中で、ご家族の事情にあわせなければならない場面もあったと思います。その時、どう感じましたか。
キャリアは本来自己実現を目標とするものですが、家族ができた後は自己実現ではなく「家族みんなの幸せ」を目標に変えなければいけないと気づきました。
『礼記』と言う中国古書には"修身斉家治国平天下"と言う名言があります。天下を治めるには、まず自分の行いを正しくし、次に家庭をととのえ、次に国家を治め、そして天下を平和にすべきであるという意味ですね。キャリアに置き換えると、偉大な夢を実現するためには家庭を先に整えなければいけないということですね。
-- ご両親も金さんの日本でのご活躍を見て、とても嬉しいと思います。
いま自分も子供を持つ親として考えてみると、最初は不安だらけだったでしょうね。初めてキヤノンのインターンを受けた時は、電話もなくてWeChatもない、国際電話を1か月に1回するような時代だったので、とても心配されました。
親の尊敬できるところは、自分の意見をとても尊重してくれていた。やりたいことには、よく考えてから本当にその方向に向かいたいなら行ってもいいよ、でもリスクとや挫折も覚悟してから行きなさいと送り出してくれました。でも今も、心配してます。
-- 実は、日本において女性CXOを取り上げられる機会というのは少なく、EVANGEの中でも今回が2件目なんです。女性でキャリアアップを考えている方にアドバイスをいただけませんか。
世界では女性がCXOになっているケースがどんどん増えています。Facebook COOシェリル・サンドバーグやYoutube CEOスーザン・ウォシッキー、Microsoft CFOエイミー・フッドなど巨大企業でも女性CXOの起用が普通になってきました。女性がCXOに挑戦するために必要なのは、まず勇気を持つこと。自分ならできる、もっと高いところへチャレンジしてみたいと勇敢に前に一歩を踏み出すことが大事です。
そして時間管理です。CXOと一般社員で最も違うのは仕事量の多さと責任の重さです。毎日色々なタスクに追われ、プライオリティを決めて最も重要なことから着手して効率的に仕事をする必要があります。
最後は、心ですね。女性ならではの繊細な感性で、問題点やリスクを感知することができます。思いやりでメンバーと接し、熱心と真心でカスタマーとクライアントと接する、そして細心でビジネスを営むなど、心を込めた仕事ぶりは女性CXOの強みになると確信しています。
-- 母として、ビジネスパーソンとして金さんが実現されたいのは、どのようなキャリアなのでしょうか。
Facebook COOシェリル・サンドバーグとマッキンゼーとJPモルガン出身の勝間和代さんは、ともに複数の子どもを持つ女性リーダーです。彼女達は仕事と家庭のバランスを取るために日々努力をされています。常にタイムマネジメント術を工夫したり、仕事とライフスタイルの最適化を図ったりして自分に最も合う、かつ実現可能な道を選択しています。私も、そういったロールモデルの方々のように、仕事と家庭を両立することに最善を尽くす妻と母を目指しています。
EVANGE - Director : Kanta Hironaka / Creative Director : Munechika Ishibashi / Assistant Director : Yoshiki Baba / Writer :Ryohei Watanabe, Yuto Okiyama, Mutsumi Ozaki / PR : Hitomi Tomoyuki / Photographer : Jin Hayato