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清野 英介(Eisuke Kiyono)
慶應義塾大学経済学部卒。株式会社日本興業銀行を経て、2007年楽天株式会社に参画後、インターネット金融事業の立ち上げから成長に貢献。楽天証券取締役副社長執行役員を経て、2023年11月カンムに入社。2024年4月より執行役員 COO 兼 B2C事業統括に就任。
カンムは「銀行機能のアップデート」を目指し、お金が行き届いていない人や企業に向けた「お金の新しい選択肢」を提供するフィンテックスタートアップです。主力事業の『バンドルカード』は誰でも1分でつくれるVisaプリペイドカードで、1,100万ダウンロードを突破。数年前には投資と決済を1つのアプリで完結できる『Pool』をローンチ。今年6月にはAI活用した決算書提出不要の資金調達サービス『サクっと資金調達』を展開しています。
私は2023年11月に入社し、2024年4月からCOO/執行役員としてBtoC事業の事業統括として『バンドルカード』と『Pool』を管掌しています。
中核事業であるBtoCの既存のビジネスをどのように伸ばしていくか。事業領域をどう増やしていくか、如何にしてカンムの次の成長をつくっていくか。事業の戦略を描き、実現していく役割を担っています。
新卒で日本興業銀行に入行したのがきっかけで金融業界に入りました。日本企業の国際競争力強化に力を尽くし、日本経済の発展に貢献してきた銀行で「次の産業をつくっていきたい」という想いから入行しています。
そんな想いがある一方で、入行した翌年97年以降、銀行などが次々と破綻し「金融機関の危機」が取り沙汰されるようになり、金融再編へと時代は移り変わっていきました。業界としてもそれまで経験したことのない厳しい時期を経て、みずほ銀行に変わったタイミングで転職。その後、留学を経て、楽天(現・楽天グループ)に入社しました。振り返ると、ずっと金融に関わっていますが、「何のための金融なのか」を自問自答しながら続けていました。
そんな中、留学中に色々と学びながら次のキャリアを考えていた時、成長産業でさまざまなことを経験し力をつけていきたいと思っていたところ、当時インターネット事業で大きく成長していた楽天が、金融事業も大きくしていきたいことを知り、金融チームに参画しました。当時はまだ、金融事業と言っても、楽天カードや楽天証券くらいしかなく、銀行や保険、ペイメントなどもない状況でした。
当初は金融事業もゼロから立ち上げようとしていた楽天ですが、ディーエルジェイディレクト・エスエフジー証券株式会社(現 楽天証券株式会社)の買収を皮切りに、M&Aによって事業をつくるスタイルへと変わっていきました。徐々に金融事業ができつつある中、当時のメンバーは、各事業の成長とグループシナジーの創出のため、事業側に入っていくこととなりました。そんな中で私は楽天証券にいくことになりました。
楽天での金融事業は、それまで経験してきた伝統的な金融のあり方とは異なり、楽天エコシステム(経済圏)のユーザーにとって価値ある金融サービスを、インターネットを通じて新たにつくっていくことを模索していました。メンバーが皆、楽しみながら新しい価値をつくろうとしている姿を見て、それまで私が経験してきた金融とはまた異なる世界があるんだと痛感したのを昨日のことのように思い出します。
そうですね。『楽天エコシステム(経済圏)』のユーザーに向けた「新しい金融サービスをつくる」ために、今までの機能のあり方を変えていくというチャレンジが新鮮で面白かったですね。「何のための金融なのか」という意義は今もずっと大切にしていますが、金融の新しい可能性を強く感じられるようになったのは楽天での経験が大きいと思います。
楽天はB2C事業、いわゆるリテールサービスを主軸においた会社で、金融サービスをつくる上でも「個人一人一人にとって意味のある金融」をずっと意識して仕事をしてきました。楽天証券においても同じ考えでずっとやってきましたが、リテール証券におけるプレゼンスが高まっていくにつれ、自分自身の視点も「日本経済を活性化させるための金融」と考えるようになっていきました。 経済を活性化させて国民所得を増やすには、消費を促すだけでなく、投資を促すことも必要だからです。いわゆる「貯蓄から資産形成(投資)へ」の流れをつくり、投資の大衆化を目指すことにつながっていきました。
しかし、楽天証券は創立当初から、トレーディングサービスを中心に成長してきた会社で、いわゆるデイトレーダーに代表されるような個人投資家が主なユーザーでした。一方、それ以外の多くの一般生活者は、長らく続いたデフレ経済の中、あえてリスクをとって投資で資産を増やしていくことについて抵抗感があったのも事実でした。そんな中、『楽天市場』はネットショップ市場で業界を変え、「個人の商い」の常識に変革をもたらしました。『楽天市場』同様に、なんとかして投資も一般生活者に広く普及していくようにならないかという気持ちをずっと強くもっていました。
今でこそNISAやiDeCoなど、国策としての「貯蓄から資産形成(投資)へ」が徐々に広まってきたことを実感していますが、実は日本政府の方針としてはじめて打ち出されたのは、2001年頃でした。 何十年も進展しない状況が続いた中、私たちは一般の方たちに投資を「どのように広めていくか」を考える必要がありました。ここで大切なことは、結局その個人にとって、一時のお金儲けの手段としての投資という視点ではなく、「将来をつくっていく中で、投資がどの位置付けになるのか」とかいうことが肝要と考え、 そこを重点的に考えていました。
市場を創出するにはタイミングが非常に重要です。自分たちが頑張っても機が熟してない、世間とマッチしていないと意味がありません。そこに難しさがあります。
たとえば、「『楽天ポイント』で投資ができる」サービスは2017年から提供を開始しましたが、そのアイデア自体はかなり前からあったと記憶しています。「投資をはじめる」ことに対する難しさや(損をするかもしれないという)怖さを、ポイントというある意味おまけのように手に入れたものを使うことでハードルをグッと下げることができるのではないかという話が出ていたんです。
でもその頃は、楽天証券のメインユーザーがアクティブトレーダー中心だったので、そこに向けて「ポイントで投資ができます」と言っても響かない。アイデアは温めながらも実現には至っていない中、アベノミクスで株式市場も活況になり、NISAやiDeCoが始まりながら、徐々に投資が普及しはじめた頃、改めて、ポイントを軸にした戦略を考え始めました。
つみたてNISAが始まった2018年の年末までにさまざまな一般生活者向けのサービスを投入し、『楽天エコシステム(経済圏)』における「投資エコシステム」を構築しました。そして翌年2019年には「老後2000万円問題」で一般層にも投資・資産形成が意識づけられ、2020年以降はコロナ禍となり、世界的にもオンライン投資がブームになり、投資が一気に一般に普及していったわけです。
そうした世の中の大きな潮流の前夜ともいえるタイミングで、こうした「投資エコシステム」を用意できていたということが、その後投資が普及し始めた、大きなきっかけだったと思います。今振り返ってみると、市場をつくる上では、もちろんよいサービスをつくることが大切ですが、社会現象につながるようなインパクトを出すには、8割くらいはタイミングに左右されるのではないでしょうか。
残り2割は顧客志向と適切な競争環境だなと思っています。「クレジットカードでお買い物をするように投資ができたら良いのに」というユーザーの声は以前からありました。また競合との競争環境も大変重要な要素です。競争していくというのは大変なことですが、ある意味、競合が入ってこない分野、というのはそれだけ魅力に欠ける可能性も大きいからです。社会に変化が起きた時に、それを受け止められる、レバレッジできるプラットフォームをつくっていたということが成功の大きな要因だったのではないかと思います。
タイミングが合わなかったケースでいうと、思い出すのは「楽天キャッシュ」です。楽天に入った後、私が最初に関わったプロジェクトでした。いわゆる電子マネーなんですが、今で言う資金決済法というものができる前に実現したサービスでした。”ポイント”は一般的に、買い物をするとおまけのように「もらうもの」という位置付けでしたが、それを自ら取得(買えたり)、送ったりできる”ポイント”があれば、面白いよね、ということで、それを電子マネーという形で実現したものでした。
現在は、楽天ペイアプリで楽天キャッシュに現金を交換したりできますし、楽天証券でも楽天キャッシュで投資信託を積み立てたりして、広がっているのですが、普及に至るまで15年近くかかったことを考えると、とても斬新で面白い発想だったのですが、タイミングが少し早かったのかな、と感じています。
カンムには、単純に事業成長をつくるだけではない、会社全体のカルチャーや組織含めてすべてを一緒につくっていけるような“介在できる余白の大きさ”を感じられたのが決め手です。転職する際に「事業だけでなく、会社そのものを一緒につくっていきたい」と考えていましたから、「会社として何を目指して、どこを狙って、何をやっていきたいのか」から一緒につくっていけるカンムは面白そうだと思いました。
とはいえ、スタートアップということもあり、開示情報は少ない。未知数な部分もある会社だなと最初は思ったのですが、『バンドルカード』という大きな顧客基盤があって、優秀な人材もいて、会社の雰囲気が非常に良い。スタートアップ流のイノベーションで既存の金融業界の常識を変える可能性があると感じ、再びワクワクできそうと感じたのです。
世の中にある「無意識の前提」を取り払って、さまざまなチャレンジができることがスタートアップで働く意義だと感じています。
実際にカンムで働いてみて、「世の中の既成概念を壊して、変えていこう」と、新しい価値づくりに対する貪欲さを実感しました。そして、今あるビジネスの在り方や方法に捉われず、実現できることがスタートアップで働く面白みであると感じています。
たとえば、大企業であれば、同じグループ内であったとしても、専門性の垣根を超えたサービスはなかなかつくりづらいものです。というのも、組織毎に専門領域が限定されることで、それらをシームレスに繋げる発想自体が生まれにくいからです。
それがカンムのような領域に垣根のないスタートアップでありフィンテック企業なら思いついて、実行できてしまう。なんでもつくっていける前提のもと最適化された組織だからこそ、新しい発想が生まれて形づくられる。これは、スタートアップの大きなアドバンテージであるのと同時に、スタートアップで働く人にとっての「働きがい」にもつながると思います。
もっと新しい価値を提供できるし、日本経済にももっと貢献できる。この想いに尽きるかなと思います。
「退職したらこれをやろう」ではなく、今自分が持っている知見をフルに活かして、日本を変えるような変化率の高いイノベーションを起こすには何ができるのか。私自身もまだまだ学びの途中ですが、根底にこうした想いを持ち続けたいです。
カンムはまだ始まったばかりの会社です。会社を成長させたり、ものづくりをしたいと思ってスタートアップに来ましたから、自分自身の価値観や仕事スタイルもアップデートさせながら邁進していきたいです。
事業において大切なのは数字だけではないんですよね。人材を育てていったり、組織をつくったり、全部をまるごとつくれる楽しさはスタートアップの方がはるかに強いと思います。大企業でも新規事業を始めることはあると思うのですが、あくまで事業モデルをつくったり、売り上げの数字をつくるということに留まり、人からつくることはできないのではないかと思います。
一つの会社をつくるレベルで新しい事業をつくる経験をしたいのだったらスタートアップの方が近いと思いますし、大企業の新規事業はうまくいかなくてもカバーできますが、スタートアップはそうではないですよね。私はそこに面白さを感じています。
清野さんは楽天証券の副社長として、日本における投資の民主化を推進し、新たな産業を生み出してきました。そのような大企業のトップを務める方が、当時まだ50名規模のスタートアップであるカンムに参画したことは、日本の成長産業にとってメモリアルな出来事だと感じています。
初めて清野さんにお会いした際、物静かで落ち着いたご様子の裏に、強い闘志が静かに燃えていたのを今でも覚えています。共に新しい機会を模索し、議論を重ねる中では「社会に溶け込む新しい金融サービスと、それを生み出すチームを創りたい」という信念が見えました。
そのような清野さんの志に共鳴し、清野さんが得意とするtoCのフィンテック領域であり、バンドルカードのアセットがありながらも人数規模が小さく、カルチャーマッチするカンムにお引き合わせしました。
半年間伴走する中で、大企業の経営者などからもお誘いが多数あったそうですが、最後には報酬や肩書ではなく、「何のために働くのか」という問いを優先し、スタートアップであるカンムで挑戦することを決断されました。
日本には清野さんのように産業をつくってきた方が他にもいらっしゃいます。清野さんは、残りの時間をどう使うのかを考え抜き、一歩前に踏み出す力を持って前に進まれたのだと思います。
「人間が選択できる最も美しい行動は挑戦だ!」弊社CEO志水の言葉です。この記事が、挑戦したいと思う人々の背中を押し「一歩前に踏み出す力」となることを願っています。
- 前田 敦也(フォースタートアップス株式会社 マネージャー/シニアヒューマンキャピタリスト)
前田 敦也(Atsuya Maeda)
フォースタートアップス株式会社 タレントエージェンシー本部 マネージャー シニアヒューマンキャピタリスト
天理大学を卒業後、東証プライム上場ITベンチャーにてプロダクトマーケティングに従事。その後慶應義塾大学発スタートアップの創業メンバー/マーケティング責任者として、累計10億円の資金調達や事業成長を経験。スタートアップで働く中で、成長産業におけるHRの重要性を痛感し、2022年8月よりフォースタートアップスにジョイン。ヒューマンキャピタリストとして、インターネット産業を中心としたハイレイヤー支援や、TOEIC990点の英語力を活かしたグローバル支援を行い、2023年8月にdodaX『HeadHunter of the Year』IT・インターネット部門にてMVP、エグゼクティブ 支援人数部門にて3位の2部門を受賞。2023年1月よりマネージャーに就任。
https://www.linkedin.com/in/atsuya-maeda/
EVANGE - Director : Wataru Mizote / Creative Director : Munechika Ishibashi / Interviewer : Kaito Iimori / Writer : Kozue Nakamura / Editor:Daisuke Ito / Assistant Director : Makiha Orii / Photographer : Shota Matsushima