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医療にアクセスする障壁を最小化することを目指す株式会社TENET(以下、TENET)。同社のCFOとして活躍する松永 優太(Yuta Matsunaga)氏のキャリア形成、企業選択の軸に迫ります。
松永 優太(Yuta Matsunaga)
SMBC日興証券株式会社の投資銀行本部(東京・ニューヨーク)で計7年超にわたり上場企業の資金調達やIPO支援、M&Aアドバイザリーなど経験。その後、Paidyを経て2022年7月よりTENETのCFOに就任。
TENETは、2020年3月に創業された新進気鋭のスタートアップ企業で、医療機関向けDX支援事業を展開しています。患者にとっては自宅に居ながらでも安心安全で適切な医療へのアクセス、医師や医療従事者にとってはパソコン1台で働ける機会創出を行っており、「テクノロジーで医療の力を100%引き出し、健康寿命100年を実現する」ことをミッションとして掲げています。
TENETには、2022年7月にCFOとして入社しました。役割は、HR以外のコーポレート部門の統括を行っています。エクイティ・デットによる資金調達や事業計画・予算の策定、KPI管理・分析、将来的な上場に向けた準備、M&A体制の整備、法務・労務・情報セキュリティなどのリスクマネジメント、それらを担うメンバーの採用含むチームアップなど、攻めも守りも両方担当しています。
とにかく激動で、体感では1年ほど時間が過ぎた感覚です。私自身、9人目の正社員として入社しましたが、この4ヶ月で社員数は16人とおよそ倍になりました。非常に速いスピードで企業運営がされているので、置いていかれないように能動的に経営陣やチームメンバーとディスカッションしながら、戦略を考えて実行する日々を過ごしています。圧倒的な裁量権がある中で、ファイナンスに強みを持つ経営陣の一人として事業運営に関わっています。
そうですね。ただ、もともと新しいことにチャレンジすることが好きなので、この環境そのものをとても楽しんでいます。これまでも、不動産や再生可能エネルギー企業、そしてFinTechとさまざまな業界を経験し、現在は医療業界へ転身しました。どの環境でも共通して「知らないことを知っていくことで知的好奇心が満たされる感覚」があり、それがとても面白いです。引き続き、ファイナンスという専門性を持ちつつ、分野にとらわれず楽しみながら管掌範囲を広げていきたいです。
自営業者が多かった親戚の影響が大きいです。父方の親戚は会社経営や大学教授をしていたり、父も個人事業主として働いており、身近にサラリーマンがいない環境で育ってきました。そのため、個人事業主や起業することを自然と考えていたものの、一方で地に足をつけてビジネスや金融を学びたい思いもあったので、商学部への進学を決めました。会社を経営する上でファイナンスの知識は必須となるため、将来に活かせると思ったのです。
就職活動では、短期間で一気に成長できる環境の中で、ファイナンスのスキルを身につけられるかを重視していました。情報収集をする中で投資銀行の存在を知り、まさに自分が望む経験が得られると感じたので就職先に決めました。
圧倒的に成長できる環境はどこかを考えたときに、「成長=案件数」と結論づけました。大小さまざまな案件がありますが、大きい案件の場合は一人の裁量権が減る可能性があると思い、そこまで大規模ではなくても裁量権を持って担当できる案件数が多い環境を求めて、数ある投資銀行の中で、圧倒的に案件数が多かった日興証券を選びました。
想像通りの忙しさでした。日興証券には7年在籍したのですが、特に最初の3年間は電車で帰った記憶がないくらい忙しかったです(笑)。
入社後2年間は、自動車部品や航空系といった一般産業の担当をしていました。3年目に、日興証券の中でも一番案件数が多い不動産の部署に、自ら希望を出して異動しました。短期間でスピード感を持って成長したかったので私としては自然な意思決定でしたが、周りからは今まで以上に忙しくなることをとても心配されました。不動産の部署は、エクイティファイナンスのトップシェアの分野でもあり、想定通り一人が担当する案件もそれまでの3~4倍の数だったので、その分スピード感を持って経験を積めました。エクイティファイナンスであれば、大概のことは一人でできるくらいの知識と経験が積めたので、異動できてよかったと思います。
日々の成長実感が頑張り続けるモチベーションにつながりました。日興証券の不動産チームには、マーケットを作ってきたという自負がありました。業界の中でもトップシェアを誇っている中で1%のシェアを競う世界だったので、上司からはよく「戦っているフィールドを自分で決めつけず、視座を高く持つように」と言われ続けていました。そんな仲間に囲まれて社内外の人と向き合い続けたことで、私自身も視座を高く持ち続けることができましたし、細かいことですが、仕事を進めるスピード感や生産性にはこだわり続けていました。これは今でも大事にしています。
ニューヨーク勤務も自ら志望したもので、希望した理由は3つありました。1つは、投資銀行業界本場のニューヨークで仕事をすることで、もう一段ブレイクスルーしたかったこと。2つ目は、英語への苦手意識があったので英語が必要な環境に身を置きたかったこと。そして3つ目は、それまでエクイティファイナンスの経験が多かったのでM&Aの経験を積みたかったことです。
留学経験もなかったため、初めての海外生活は大変で、最初は銀行口座の開設や住環境を整えるだけで一苦労しましたが、徐々に楽しめるようになり、充実した1年2ヶ月となりました。
日本にいた頃は、日本人以外は「外国人」と一括りにしている節がありましたが、いざニューヨークで働いてみると、例えば日本人以上に細かいカリブ系の方がいたり、いつもシリアスな表情をしているけれど性格はとても温厚で楽観的な方がいたりと、性格は人それぞれでさまざまな人がいることがわかりました。
また、働き方についても日本とは大きな違いがあり、長期間休みを取る人がいて、それを当たり前のように周りがカバーしているのはとても新鮮でした。日本とは全く違う文化に触れるのは大きな発見で、自分の見識や常識が広がる機会となりました。
変わらずタフに働く日々ではありますが、メリハリをつけることを意識するようになりました。プライベートも大事にすることで、仕事に良いインパクトがあるということが分かってきたので、今ではプライベートもしっかり楽しむようにしています。
そうですね。ずっと仕事ばかりの生活になると、フレッシュにクリエイティビティを持って考えることが難しくなります。休息の時間を持つことで、俯瞰して仕事を見ることができたり、自分の人生について考え直す機会が持てるなど、これまでの経験がどう今に繋がっているのかを考える時間が持てるようになりました。意識的にあえて余白を作ることで、仕事もよりスムーズに進められるようになったと思います。
日興証券の投資銀行部門では3年ごとに昇進していくのが通例で、入社当時からシニアバンカーになるまでは頑張ると決めていました。7年目で無事シニアバンカーになったことを機に、このままバンカーを続けることも面白そうと思ったものの、何か新しいことにチャレンジしたいと思い始めたことが転職のきっかけです。
そんなタイミングでたまたまオファーをいただいたのが株式会社Paidy(以下、Paidy)でした。周りの先輩方を見てみると事業会社のCFOとして活躍されている人も多く、事業会社の中でファイナンスの専門性を活かしてみるのも面白いかと思い、転職を決めました。
Paidyの他にもう1社検討していました。投資銀行では、クライアントに上場会社が多かったため、スタートアップ企業に関しては知らないことが多く、直感で良いなと思えたところに飛び込もうと決めていました。
また、ファイナンスの経験が活かせるかどうかを重視していたので、資金調達やM&Aなどの資本市場におけるコーポレートアクションが多い会社で、成長性が高く、勢いのある会社に絞った結果、その2社で検討となりました。
ポイントは3つあります。
1つはPaidyが当時、何度も資金調達を発表しておりコーポレートアクションが多く、ファイナンスの経験が色々活かせると思ったこと。2つ目は、日系企業で日本でサービスを展開していながらも、社員の半数以上が外国人だったこと。ニューヨークで海外の人と働く面白さを感じていたので、また英語を使って働ける環境はとても魅力に感じました。そして3つ目は、面接の時に話したファイナンス・アカウンティングのメンバーが皆さん優秀で良いチームだと感じたことが決め手になりました。
とても優秀で良いチームメンバーと働くことができた日々でした。結果的には1年間の在籍ではありましたが、感覚としては3年間くらいに感じる充実した日々でした。いつか自分もこんなCFOになりたいと思える人と働けたことと、いつか自分がCFOになったらこんなチームを作りたいと思える理想のチームと働けたことが何よりの財産となりました。言語化が難しかった自分が思う理想のCFO像や理想のチーム像がPaidyで具現化された感覚です。
Paidyには、旅立つ人を「Paidyマフィア」と呼び、新たな場所で活躍してほしい気持ちを込めて全力で送り出す文化があります。実際、私の最終出社日には、ファイナンス・アカウンティングのチームメンバーが有給をとって1日かけて送別会をしてくれました(笑)。特にコーポレート部門は、無機質な人が多い印象を持たれがちですが、Paidyは外国人が多くてフレンドリーなカルチャーが醸成されていることもあり、とてもフラットで話しやすいメンバーばかりでした。チーム全員が誇りを持っていて仕事をしており、一緒に働いていてとても楽しかったです。
そうですね。話題にもなりましたが、Paidyが PayPal Holdings, Inc.(以下、PayPal)に買収されたことはとても貴重な経験となりました。日本のスタートアップが海外の大企業にM&Aされることはなかなか経験できることではなく、それを実際に経験したことは、願ってもできない貴重な経験だったと思います。
会社の意思決定としても合理的だったと思いますし、個人の経験的な側面においても、将来違う会社でM&Aをする側になった時に、M&Aされる側の気持ちを理解できていることは、立場が変わったとしても活かせる部分が多いと思います。
また、世界中に展開するPayPalのリーダークラスの方たちと一緒に仕事をしたことで、グローバルカンパニーのスタンダードを知ることができたことも、自分の視座をさらに高める機会となりました。
ゆくゆくはスタートアップでCFOを担いたいと思ってPaidyに転職し、Paidyで自分の理想とするCFOのもとで働けたことで、自分自身のなりたい気持ちがより強くなりました。またCFOと話していた際、「CFOになってみないとわからない孤独や大変さがある。なれるチャンスがあるなら挑戦してみてはどうか」と言われ、より一層CFOを意識するようになりました。PayPalによる買収後、ファイナンス側のPMI(M&A後の統合プロセス)が落ち着いたタイミングの2022年春に、転職先を探し始めることとなりました。
TENETを紹介されたのは転職活動の終盤だったため、もう新しい企業を検討するのはいいかなと思っていましたが、ヒューマンキャピタリストの方から「ぜひ会ってほしい」と言われて、勢いに押されて会ってみることになったのです。
「TENET」と検索しても会社情報が出てこず、名前を聞いたことがなかったので、「本当に存在しているのか?」とすら思ってました(笑)。
しかし、実際に会ってみると激震が走るくらい面白い会社だと思いました。医療業界については全然詳しくなかったのですが、2年前に日本でオンライン診療の初診が解禁され、この2年半で会社としても急成長していることに驚きました。なんで今まで表に出てこなかったのだろうと思うくらいすごい会社でした。
また、代表の花房は既に一度起業した会社を売却しており、2社目の創業ということで落ち着いた人物かと思いきや、24時間365日事業のことを考えているような熱い人で、彼の人間性も強く印象に残りました。今でもそれは変わらず気がつくとずっとユーザーのことを考えているので、逆に私が飲み会などに無理やり誘って連れ出すことで、外の世界に触れる機会を作っています(笑)。
TENETとは衝撃的な出会いだったと言いつつ、転職活動終盤ということは、すでに他の企業からオファーがあったのではないでしょうか?
TENETを紹介された時には既に4社からオファーをいただいており、どこにするか決めようとしているタイミングでした。しかし、事業に強い想いを持っている花房の人間性と、ヘルスケアというペインの大きな業界をテックで解決するチャレンジの面白さ、そして2年半でしっかり業績を作りつつ、さらに大きな挑戦を目指す思いに共感して、TENETと出会って2週間後には入社を決めていました。
他社にはなかったTENETの魅力は何だったのでしょうか?
明確に違った点は、有言実行のスピードと推進力です。花房に初めて会った時点で、「来週もう一度話して、双方良いとなったらいついつにオファーを出します」と明確に言われました。そして、実際その通りにオファーが出たのです。
スタートアップではスピードが重要とよく言われますが、特に採用においてはスピード感を持って意思決定をするのは難しいと思います。その中で、花房が初回から2週間でオファーを提示したことは、その覚悟もスピード感も他社と比較して抜きん出ていました。このスピード感で意思決定ができる代表であれば、一緒にやっていきたいと思ったことが決め手となり、オファーをいただいたその日中に他社のオファーをすべて辞退しました。
代表花房さんと松永さんの覚悟とスピード感が共鳴しあったんですね。
そうですね。まさか最終選考の会食の場でオファーをいただくとは思っていませんでしたが、花房からは「もし条件等にも納得してもらえるなら、今日返事が欲しい」と言われました。私もそのスピード感に答えるべく、オファーレターを受け取ってから「1分だけ考えさせてほしい」とお伝えし、42秒後には承諾の返事をしました。
そんな劇的な出会いがあったTENETですが、入社してみていかがでしたか?
カオスですが、まさに望んでいた環境がある会社でした。何もない状態からのスタートだったので、花房と一緒に会社説明資料を作ったり、時には一緒に花房のお子さんを保育園に迎えに行きながら、その道中でも議論をしたり(笑)。また、入社してからファイナンスと経営管理担当を2名採用することもでき、徐々にチームができあがりつつあります。引き続き、上場に向けても早め早めに動ける体制を整えています。
最後に、今後の展望もお伺いします。松永さんは、CFOとしてTENETをどんな会社にしていきたいとお考えですか?
日本では国民全員に等しく医療が提供されている一方で、高齢化による医療費の増加やオンライン診療の普及率が諸外国に比べて低いといった様々な課題を抱えています。そんなチャレンジのある業界だからこそTENETが起爆剤となり、医療機関やその先の患者が抱えるペインを少しでも解消することに貢献したいと思っています。
また、オンライン診療はあくまでも手段でしかありませんが、患者がいろんな事情で抱えているペインをひとつひとつ解決していくことに意義があると思っています。システムが導入されるだけでは不十分で、それが使われて初めて患者や医師に価値を提供でき、医療業界がアップデートされると思っているので、その最終ユーザーにまで便益を届けることを意識してコミットする会社にしていきたいです。
松永さんが目指すCFO像があれば教えてください。
よく「攻めのCFO」や「守りのCFO」という言い方をされますが、そのようにカテゴライズすることに抵抗があり、私自身は型にはまらないCFOで居続けたいと思っています。ファイナンスに詳しいからCFOであるだけというスタンスで、経営陣の一人として会社経営をしている意識を持って、会社を大きくしていくために自分ができることは柔軟に対応するCFOでありたいです。
松永さんは現在30歳で、業界の中でも若いCFOだと思います。今後、松永さんのように若いうちからCFOを目指している人たちにメッセージやアドバイスがあれば教えてください。
伝えたいことは「CFOになりたいのであれば今すぐなろう!」ですね。もちろん知識と経験は必要になりますが、CFOになってみないとわからない景色があるのは事実なので、オファーがもらえるのであれば早く挑戦してみるといいと思います。私も早いと言われることがありますが、20代のCFOがいてもいいと思うし、バックグラウンドに関係なく、様々なキャリアの人にCFOを目指してほしいです。
そんな思いもあり、私の裏ミッションは「CFOを目指す人の選択肢を広げられる取り組みをしていくこと」です。CFOにはファイナンスに詳しいことが求められますが、それ以上に経営陣の一人として物事を見られるか、覚悟を持てるかが大事だと思います。それさえあれば、20代でもチャレンジできると思うので、今後はCFOに挑戦したい人のサポートも行っていきたいです。
EVANGE - Director : Koki Azuma / Creative Director : Munechika Ishibashi / Writer : Karen / Editor:Hanako Yasumatsu / Photographer : Takumi Yano