「企業の成長と自分の成長を重ね合わせる」複数のベンチャー企業でCTO/VPoEを経験したカケハシ執行役員 三井陽一氏にとってのスタートアップで働く意義

2024-09-11

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*2024年9月30日時点
三井 陽一(Yoichi Mitsui)
東京大学卒業後、テニススクールのコーチとして社会人のキャリアをスタート。その後ITエンジニアに転身し、複数のベンチャー企業において CTO / CPO / CIO / VPoE 等を歴任。また、大手セキュリティ企業において8年半にわたりプロダクト開発や研究開発を多数推進。2023年5月、株式会社カケハシに参画。

まずは株式会社カケハシ(以下、カケハシ)の事業内容を教えてください。

カケハシは2016年3月に創業したヘルスケアスタートアップ企業で、薬局向けにクラウドサービスを提供しています。「日本の医療体験を、しなやかに。」というミッションを掲げており、医療従事者の体験はもちろん、その先にいらっしゃる患者さんの医療体験も改善していきたいと願っています。薬局という身近な接点を起点にして、 医療全体の仕組みをより良いものにしていくというところが非常にチャレンジングな取り組みだと思っています。

その中で三井さんはどのような役割を担われていらっしゃいますか。

プロダクトのプラットフォーム、社内の情報システム、セキュリティといった領域を担当しています。カケハシの事業対象は医療ドメインですので、特に高いレベルのセキュリティが要求されます。お客様に安心して当社のサービスをご利用いただけるように、セキュリティも含めて、サービスの水準を維持向上させていく役割を担っています。

テニススクールコーチ時代の今につながる経験

キャリアの初期を振り返って、現在の三井さんにつながる出来事はどのようなことが思い浮かびますか。

社会人になるまでのエピソードは、実はあまり思いついたものが無いんですよね。学生時代はその時に好きなことに夢中になっていました。就職の選択もそれに則っていて、大学を卒業するタイミングで一番熱中しているものがテニスだったので、テニススクールに就職をしました。そこで生徒さんの名簿管理にパソコンを使っていた時に、それを自分でカスタマイズして業務効率化を行いたいと思うようになり、プライベートの時間を使って改めてプログラミングの勉強をしました。

世間的にITも盛り上がっていましたし、私がコーチをやっていた時代はWindows98が登場したタイミングで、いよいよ一般的にインターネットを使うことが当たり前になってきました。開発の専門分野においてもJavaが普及し始めた頃で、プログラミングのパラダイムも、それまでの手続き型からオブジェクト指向型にシフトしていく興味深いタイミングでした。

その時にエンジニアリングに関心を持たれたきっかけがあったのですね。テニススクールで生徒に向き合う中で、今につながる学びはどのようなものがあるのでしょうか。

真っ直ぐエンジニアになっていたら気付けなかったことがたくさんあったと振り返っています。スクールに通っている生徒さんたちは、様々なモチベーションでレッスンに参加されているんですね。本気でうまくなりたい、試合に勝ちたいという方もいらっしゃれば、 健康のためにテニスをしている方もいらっしゃいます。それぞれの目標を達成するために適宜コーチから働きかけないとつまらなくなって辞めてしまうことがあります。

これは後から思ったのですが、テニスコーチはある種のカスタマーサクセスだなと。継続的にお客様に対して価値貢献をしていくという考え方です。またコーチということで一挙手一投足に注目が集まるんですね。人前に立つという自分なりのプロフェッショナリズムを描いたのもこの頃でした。その後、IT業界に転職した時は遠回りしてしまったなと思っていたのですが、振り返ってみるとテニスコーチをやっていて良かったなと思いました。

経営に関わることの覚悟と面白さ

取締役として経営経験をされますが、その経験の前後でどのような変化がありましたか。

「会社」というものに対する向き合い方は大きく変わったと思います。取締役は法律上の責任も一般の従業員とは異なるので従業員の延長ではないですし、雇われる側で働いていた時とは全く違うのだと痛感させられました。

初めて取締役になった時は、日々プレッシャーとの戦いでした。現場を預かりながらも会社に対しても責任を負うというところは、自分にとって大きな成長の糧になりました。相当なプレッシャーと戦いながら取締役をしたことで、会社の目指す方向性に自分を重ねてコミットしていくスタンスが身につきましたし、その後の経験にも活きていると思います。

経営経験をしたい方はたくさんいると思うのですが、叶わない場合もあると思います。三井さんはなぜ30代で出来たのでしょうか。

シンプルに会社の創業メンバーであったことは大きいのではないかと思います。今の組織の中で成果を上げ続けて、従業員から役員になることももちろんあると思うのですが、新しい箱を作るということも一つの選択肢ではないかと思います。

創業メンバーとしてジョインすることはとても勇気のいることだと思いますが、当時を振り返るとどんな状況でしたか。

辛さの中に楽しさが同居している状態でしたね。「なんでもやらなければいけない」というのは、まさにその通りでした。例えば社長自身がオフィスに掃除機をかけたり、みんなでなんでもやっていました。その中でも新しいビジネスを立ち上げるということには苦労しましたね。PMFに持っていくまでの試行錯誤という楽しいところでもあるのですが、マーケットから手厳しいフィードバックをいただくこともありました。

経営者であり、事業家としてのマインドもそこでかなり鍛えられたのでしょうか。

テクノロジーの責任者という立場であったとはいえ、自分の作ったものがそのまま世に問われることになるのは大きなポイントでしたね。スタートアップではありましたが、大きな法人のお客様向けのビジネスだったので、障害が発生した時はいわゆるハードシングスな状態になっていました。

三井さんのビジネスパーソンとしての転換点

今の自分を作ったと思える転換期というのは、キャリアを振り返ってどこにあると思いますか。

大きく3つの転換期があったと思っています。1つめはテニスコーチから転身して初めて働いたスタートアップ企業でのプロダクト開発です。代表が非常にビジョナリーな方で、まだ何を作るかが決まっていない際に、「新サービスの記者発表を3ヶ月後に実施」ということだけ決まっていました。当然、条件反射的に絶対無理ですという反応をしたのですが、うまいこと言いくるめられてですね(笑)。

最初は無理だと思っていたことに対して、どのようなモチベーションでプロダクト作りを進めてこられたのでしょうか。

毎日社内の仲間たちとディスカッションして試行錯誤しているうちに、目指すべき方向性みたいなものが見えてきました。そこからは「私もユーザーとしてこのサービスを使いたい」というモチベーションが強烈に出てきて、記者発表にも間に合わせることができました。結果的に会見で良い反応を得られて、お客様からの問い合わせも増え、その後の会社の主力事業になっていきました。

まさに限界突破をされたご経験ですね。当時を振り返ってどのようなことが学びとなりましたか。

あの時に「無理です」と言って終わらせていたら、何も起こらなかったと思います。自分で限界だと思っていたことは、実は限界ではなかったんだなと強く感じました。20代だったからなのかもしれませんが、今に繋がる貴重な経験ができました。

凄まじいスピード感の中で、変化が生まれることを体験されたのですね。

世の中の変化も当時は非常に激しい時でした。当時はモバイルのインターネットサービスをやっていたのですが、テクノロジーも日々進化しますし、マーケットもどんどん開拓されていくような中で、リアルタイムで追随して自分のサービスが世に出て、ユーザーからダイレクトに反応が得られるということはとてもエキサイティングな経験でした。

チームへのリスペクトとマネジメントへの転身

2つ目の転換点はどのようなことでしょうか。

2つ目は社内での人との関わり方に関する経験です。先述した様に、主要プロダクトを私が作ったということでエースとしてもてはやされ、自分自身も調子に乗っていたと思います。そんな時に、私のミスでお客様にご迷惑をおかけしてしまいました。営業担当者がフォローしてくれたので、私は自分がミスをしたことにも気付いていませんでした。その人は「エースはトラブルなど気にしないで、とにかく前を向いて気持ちよく仕事してほしい」と思ってくれていたそうなのですが、周囲の気遣いには後から気付きました。

そのことからどのようなことを学びましたか。

自分1人で仕事しているわけではないという、当たり前の事を学びました。それ以降、社内の色々な業務の方の話にすごく耳を傾けるようになりました。この気付きがなかったら、今頃最悪の人間だったと思います(笑)。

個人ではなくチームとしてという視点を持たれるようになったのですね。

そこが3つ目の転換点に繋がるのですが、マネジメントへ転身をした際にも大きな転換点がありました。セキュリティ企業に転職したのですが、セキュリティ業界で働くことも初めてでしたし、上場企業で働くことも初めてだったので、自分をアジャストするのに少し苦労しました。それまで自分で手を動かすことが業務の中心になっていたのですが、その会社に入社してすぐ、大規模プロジェクトマネジメントを任されました。

このプロジェクトを通じて、チームワークが短期間での大きな成果につながるダイナミズムをすごく感じて、マネジメントの醍醐味を感じました。会社から本格的なプロジェクトマネジメントの機会を与えてもらえたことは、大きな転換点になりました。

チームだからこそ出せる成果の大きさと、それを生み出すマネジメントの面白さに気付かれたのですね。そもそもセキュリティ分野に転身しようと思った理由はどんなことですか。

セキュリティの面白みは色々あると思うのですが、私がセキュリティに転身したモチベーションは、人の役に立ちたい、人を支えたいということでした。それまでスタートアップ企業2社で10年間ほど業務を経験して、自分のやりたいことはやれたかなという一区切り感があったので、もう少し他の人をサポートする仕事をしたいと考えるようになりました。

これまで培ってきたITの経験を活かしてサポートするというところで、思い浮かぶ選択がセキュリティでした。セキュリティの中でも、ガバナンス寄りのもの、テクノロジー寄りのもの、企業やユーザーのご意向に合った領域がありますが、私はテクノロジーに近い領域です。日々攻撃手段は進化しますし、それに対する防御手段というのも常に進化しています。テクノロジー的にもとても興味深く、勉強になることも多いです。

挑戦を求める原動力

三井さんが次の挑戦をしたいと思うきっかけはどんなものがあるのでしょうか。

その会社でやりきれたというとおこがましい表現になりますが、自分がいなくても業務が回る様になったと感じられた時です。後進の育成や仕組みの構築等を含めて、自分がいなくても会社が動く状態を作ることはマネジメントの重要なミッションだと考えています。もちろん、仕組みは作りますが、少なからず私の主観は入っているので、そのキャラクターまで引き継ぐ必要はありません。引き継いだ方の個性を発揮したマネジメントで、その人の色で組織を作ってほしいですね。

これまでのキャリアで、自ら役割やミッションを作って働かれていることが多いと思いますが、ご自身の役割を作るときに意識していることを教えてください。

「組織としての課題を拾っていく」ということがポイントになることが多いです。会社の成長期にやらなければいけないことが増えていく一方で、リソース不足から対応できないことは多いと思います。その課題を拾って貢献することを繰り返していくと「この領域は任せよう」となるので、組織の穴を埋めては自分としてもスキルを広げるみたいな動き方を意識しています。

挑戦し続ける原動力はどのようなものがありますか。

まずは私自身の成長です。成長の仕方には個人差がありますが、私はジェネラリストとして様々な分野で専門性を身につけるタイプです。少しずつ専門性を身につけていくと、一見親和性の無かったものから新しい着想が自分の中で芽生えてくるんですよね。

エンジニアリングだけやっていたら思い浮かばなかったこと、セキュリティだけやっていたら思い浮かばなかったことも、両方経験することで紐づいていくのはすごく面白いです。もっと幅広い領域に一定の専門性を持っていきたい。そういった着想の広がりの面白さが、自分の成長の原動力だと思います。

カケハシとの出会い

カケハシを選んだ決め手はどんなことでしたか。

私が入社した当初は、エンジニア組織の規模も大きくなってきていて、よりマネジメントを強化する必要性が高まっていたタイミングでした。事業の特性上、セキュリティ領域も非常に重視していく必要があるので、私のハイブリッドな特性が活かせるだろうと思いました。

入社してから見えた組織、事業の課題などはありますか?

医療ドメインなので、法令やガイドラインといったものを踏まえた上で事業展開していく必要があります。外的要因を踏まえながらどう進んでいくか、様々な検討の必要性を解像度高く感じています。

フォースタートアップスの支援についてはいかがでしたか。

非常に心強く、的確なご支援をいただいたと思っています。私のキャリアは特殊なので採用する企業側に難しさがあるだろうと考えていました。ヒューマンキャピタリストの皆さんも、双方にとってハッピーな着地を見つけることが難しかったと思います。

安室さんは的確に私の意向を汲みながら、この特殊なキャリアのポイントを掴んで提案をしてくれました。ある程度選考のフェーズが進んできてからも、きめ細やかなご支援をいただいたので終始安心していました。

三井さんのこれからの挑戦

今後どのようなことにチャレンジしていきたいとお考えでしょうか。

次の世代に渡す社会をより良くしたいということが、今の私の働く1番大きなモチベーションなので、それに対してコミットしていきたいです。「日本の医療体験を、しなやかに。」というカケハシのミッション実現を通じて、医療にまつわる社会課題を解決し、社会が豊かになってほしいと考えています。

カケハシにはどんな方がジョインしてほしいですか。

個人的には、様々なバックグラウンドの方に来ていただきたいと考えています。我々がフォーカスしているのは医療ドメインですが、医療以外のバックグラウンドをお持ちの方がジョインした方が、発想の幅に広がりが出ます。もちろん、カケハシのバリューへの共感が前提です。「高潔」という言葉をバリューに掲げている会社はあまり無いですが、この言葉に「医療をより良くしていく」というカケハシのスタンスが現れていると思います。こういうカルチャーの中で働きたい、と思える 方にはぜひ来ていただきたいです。

三井さんから見たカケハシの面白さはどんなところにありますか。

色々なフェーズの複数の事業が混在しているところが、面白さの1つだと思います。薬局における基幹システムのような、非常にミッションクリティカルなシステムも扱っていますし、これから立ち上がっていく新規事業もあります。そして、社会的意義にやりがいを見出していただけるのであれば、そこはすごく大きな魅力のポイントになると思います。

スタートアップで働く意義

スタートアップで働くとはどういうことでしょうか。

企業の成長と自分の成長を重ね合わせることだと思います。スタートアップはテクノロジーの力で、今まで世の中で実現されていなかったことを実現するようなチャレンジをしている企業が多いと思います。新しい価値を提供していく会社の早い成長スピードに身を置くことで、自分の成長にも繋がる。会社と自分の成長を重ね合わせていくことが、スタートアップで働く意義だと考えています。

スタートアップ経営を目指す人へのメッセージ

スタートアップで経営層や執行役員を目指す人へのメッセージをお願いします。

スタートアップに限らずですが、経営に携わるということは、会社のミッションの実現にオーナーシップを持つということだと思います。特にスタートアップの場合は、これまでにない価値を世の中に提供していくような、大きなチャレンジをすることになると思います。その中で、様々な困難に直面すると思いますが、困難を自分事として受け止めてクリアしていき、ミッション実現に邁進する。そんなマインドを持つということが、スタートアップの経営に大切なことだと思います。

編集後記

三井さんと初めてお話した時に子供たちの世代のための仕事をするという強い軸をお持ちだったことが印象的です。

唯一無二のキャリアを歩まれてきた三井さんが培ってきたスキルを最大限に活かす機会をお繋ぎできるように、さまざまな企業へ独自のポジションの提案をしていましたが、各社とも三者三様に、自社の課題に合わせて三井さんの役割をすり合わせていたことに、主体的に挑戦してきた方だからこその組織成長への影響度を感じていました。

三井さんのキャリアの軌跡は、目の前のことにコミットしている挑戦者たちが、その積み重ねた先に自分ならではの道を歩んでいく未来のロールモデルになると思います!

安室 朝常(フォースタートアップス株式会社 タレントエージェンシー本部 マネージャー / シニアヒューマンキャピタリスト)

EVANGE - Director : Kana Hayashi / Creative Director : Munechika Ishibashi / Interviewer : Tomotsune Amuro / Writer : Kozue Nakamura / Editor:Daisuke Ito / Assistant Director : Makiha Orii / Photographer : Munechika Ishibashi
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