EVANGEをご覧の皆さん、こんにちは。フォースタートアップスのEVANGE運営チームです。私たちが所属するフォースタートアップスでは累計1,500名以上のCXO・経営幹部層の起業や転職のご支援*をはじめとして、多種多様なビジネスパーソンを急成長スタートアップへご支援しています。EVANGEは、私たちがご支援させていただき、スタートアップで大活躍されている方に取材し、仕事の根源(軸と呼びます)をインタビューによって明らかにしていくメディアです。
世界中で問題視されている異常気象による植物資源生産へのダメージと、それによる飢餓、栄養失調などの食糧問題。それらの問題に植物科学からアプローチし、世界中の人々の心豊かな暮らしの実現に取り組むアグリバイオ・ベンチャー アクプランタ株式会社。同社にCOOとして入社された中坂 高士(Koji Nakasaka)氏のこれまでのキャリア形成と意思決定の軸、今後のビジョンに迫ります。
中坂 高士(Koji Nakasaka)
北海道大学環境科学院在学時に、モンゴルの森林火災を研究する中、環境問題と社会には深い関係があることを目の当たりし、持続可能な社会とは何かを問うきっかけを得る。その経験から、事業を通じて社会課題を解決したいと考え、大学院卒業後は総合商社に3年勤務。目指す事業を創るには、専門性とグローバルな仲間が必要と考え、日本の有機農家にて住み込みで約1年間農業に従事したのち、オランダWageningen大学でOrganic Agricultureの修士号を取得。在学中のインターンシップでは、IITA(International Institute of Tropical Agriculture)ガーナ事務所で、小規模農家に対して持続可能な農業技術を普及する活動に従事。その後、国際開発やスマート農業に関わる業務を経て、世界の持続可能な社会実現に貢献するべく、アクプランタにCOO(Chief Operating Officer)として参画。
当社は「Greenfulness ―気候変動を、ともに生き抜く―」をミッションに、2018年2月に会社を設立しました。事業としては、植物の乾燥・高温耐性を強化するバイオスティミュラント資材*1『Skeepon(スキーポン)シリーズ』を提供しています。Skeeponシリーズは、農業向け製品『Skeepon』、芝生向け製品『Skeepon Turf』の2種類を販売しております。
当社は、代表がCEO兼CTOの役割を担っているため、私はCOOとして主に事業開発を担当しています。
*1 植物が本来持つ免疫力を高め、耐寒性・耐暑性・病害虫耐性及び成長を促す物質や技術の総称
大学院では、モンゴルの森林火災をテーマに研究していたのですが、モンゴルで行ったフィールドワークによって、2つの点でこれまでの価値観が壊されました。
1つは環境問題の向き合い方についてです。
フィールドワークを行う前、森林火災は主に自然環境に起因して発生していると仮説を立てていました。ところが地元の方に話を聞くと、どうやら森林火災の原因は、貧困問題とも密接に関係していることが見えてきました。
お金のない人たちにとって森林は収入源となり、伐採した樹木を都市で売ることで生計を立てていました。森林伐採自体は違法ですが、森林破壊や害虫被害を受けた樹木は、伐採しても良いとされているのです。彼らはその法の抜け穴をうまく利用して、わざと火をつけて焼けた樹木を伐採し、皮を剥いで売り物にすることで、収入を得ていました。
私は研究者として、モンゴルの森林火災跡地の近くで現地の方々と一緒に生活しましたが、深夜になるとトラックやチェーンソーの音が聞こえていました。
「なるほど、地元の人たちが言っていたことって本当なんだ」と衝撃を受けたことを、鮮明に記憶しています。
まさにです。これまでの価値観が壊された瞬間でした。
森林火災は、気候変動の対策をするだけでは解決できず、社会構造を含めた貧困問題を解決しなければいけない。
環境問題が人の生活と密接に結びついて起きていることを実際に見たことで、自分がどう社会に関わっていくかを考えるきっかけになりました。
もう1つは、地域コミュニティのつながりの強さです。現地の方々は、突然訪問した私を家族団らんの食卓に混ぜてくれたり、私のつたないモンゴル語のコミュニケーションでも笑顔で接してくれるなど、外部の人間である私をとても暖かく迎え入れてくれました。
さらに、寒くて寝れないといえば近所のおばさんが毛皮の毛布を貸してくれたり、夏場の貴重な栄養源である馬乳酒を分けてくれるなど、様々な場面で助けてもらいました。困っている人がいたら、利害関係が無くても必ず手を差し伸べる利他性は衝撃的で、地域コミュニティの社会資本の分厚さを感じましたね。
日本は経済的に豊かな国である一方、私が見てきた途上国と比較すると、地域コミュニティのつながりは弱い。少なからず都市部で幼少期を過ごしてきた私には経験のないことで、とても衝撃的であったと共に、うらやましさを感じた体験でもありました。
社会課題、環境問題は、先ほど申し上げた通り複数の要素が複雑に絡み合っているため、どれか1つへのアプローチだと片手落ちで本質的な解決はできません。
その点、農業は経済活動でもあり、社会活動でもある多面的な側面を持つ産業と考えています。
食物を作ることはもちろんのこと、生計を立てるための手段であり、自然との密接な関わりによる生態系の維持、そして地域コミュニティの維持も果たしている産業です。
つまり、農業は経済・文化・環境の3要素を持ち合わせている産業で、社会課題や環境問題解決に向けたアプローチとしては最適だと考えたのです。
経済活動や事業への理解を深めるためです。大学院での研究を経て、農業が社会的側面で重要であることは理解できたものの、そもそもマクロな経済活動については理解を深められていませんでした。
どちらかだけではなく、社会と経済の両輪を回していく必要があることをモンゴルでの体験から感じていたので、当時、他の業種と比べて最前線でビジネスをしているイメージが強かった総合商社へ入社を決めました。
ことを成すためには、知識やスキルはもちろんのこと、専門性と本気度が非常に重要であることを学びました。
たとえば、ある海外の農業事業会社を買収した際、優秀な社員を現地に派遣したが、結局その事業がうまくいかないという事象がありました。
ビジネス的観点で豊富なノウハウを持っていても、携わる領域への専門性がなければうまくいかない、さらには現地の農業を良くしたい真の動機付け、「本気さ」がなければ、課題解決ができないことを目の当たりにしました。
私は当時、リスク管理の立場で複数の投資案件をモニタリングしており、ことを成すには専門性と本気度が重要であることを知ったと同時に、自分自身はそれを体現する人でありたいと強く思いました。
そこで、農業について更に専門性を深めるべく、ワーヘニンゲン大学(農業において世界一と称されるオランダの大学)への留学を決めました。
私は農学部を出ているにも関わらず、これまで農業の実体験は多くありませんでした。アカデミアだけではなく、専門性を深める上で、ひいては農業に対してのモチベーションを更に高める上で実体験を得ることが大事だと考え、留学の前に現場を知るために、1年間住み込みで農家で働かせていただきました。
オランダに留学している際に、IITA(International Institute of Tropical Agriculture)ガーナ事務所*2でインターンをしていたこともあり、日本帰国後もその延長線上で途上国の農業開発に携わりたいと考え、タスクアソシエーツに入社しました。
*2 アフリカでの飢餓、栄養失調、貧困、天然資源の枯渇といった問題に対し、農業面からの解決を目的として設立された非営利の研究開発機関
気候変動が途上国の人々の生活にどのような影響を与えているのかを知ることができました。
印象的だったのが、ガーナでのプロジェクトで農家のオーナーが「種を植えるタイミングはギャンブルだ」とおっしゃっていたことです。せっかく種を植えても、雨が降らなければ実がならず、彼らの生活はますます苦しくなる。彼らの生計は、種を植えるタイミングで大きく左右されるのです。
気候変動の影響を受けている人たちを間近で見て、彼らが明日の生活を心配をしなくていいようにするためにはどうしたらいいのか、更に深く考えるきっかけとなりました。
最前線でスピード感をもってプロジェクトを担いたかったからです。タスクアソシエーツでは、現場にいく機会が多かった点は非常によかったのですが、日本のODA(Official Development Assistance:政府開発援助)では、外交が必要になるケースも多く、スピード感をもってプロジェクトを進めることが難しいと感じました。また、現地の官僚の動き次第では、どれだけいいソリューションがあっても現場に提供できずに頓挫してしまうケースもあります。
タスクアソシエーツでの業務を通じて現場を知り、専門性が更に深まったことで、更にスピード感をもって、ダイレクトに困っている方々へアプローチしたい気持ちが強くなった故の決断でした。
代表の金の価値観が、私が大事にしている価値観と一致したからです。
非常に印象的だったことは、「研究を通じて得た新しい発見*3は、困っている人のために使うんだ」と金が断言していたことです。加えて、金が過去にインドに出張した際、経済的な理由で教育を受けられない子供たちと話したエピソードを聞く中で、「アクプランタの事業を通じて、この子たちの家庭の所得水準を上げ、最低限の教育を受けられるようしたい」という想いを伝えてもらいました。
専門性の深さに加え、実体験に基づく想いを聞いたときに「ここで働きたい」と強く思いました。
*3 アクプランタ株式会社 代表取締役の金鍾明が、理化学研究所の研究員時代に発見した「酢酸が植物の乾燥・高温耐性を強化する」というメカニズム
私が1番大事にしている「ことを成すには専門性と本気度、その本気度の構成要素である現体験がセットでなければならない」ことを、まさに体現していると感じました。
総合商社での気づきから、私自身もそれを体現したいと思い、農家で働き、オランダやガーナにも行ったりと、実体験を大事にしている感覚が金も同じだったことは、意思決定をする上では強力な要素でした。
入社してから、アクプランタの持つ技術や今後の事業展開に、益々可能性を感じています。
今は、植物の乾燥・高温耐性向上にフォーカスした取り組みを進めていますが、コア技術であるエピジェネティクス*4を使って、植物の糖や特定の機能性成分の高生産化など、生物が本来持つゲノムの潜在的可能性を最大限広げることで、新たなソリューションを生み出したいと考えています。
一方、目指したいビジョンを達成するにはまだまだリソースが不十分なので、まずはしっかり「稼ぐ」ことから実現していきたいと考えます。
*4 DNA塩基配列の変化を伴わない細胞分裂後も継承される遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化を研究する学問領域
製品を多くの人に届けるためにも、海外マーケットを狙っていきます。具体的には、アメリカ、EU(欧州連合)、中国を戦略上の重点地域に置いています。
アメリカであれば、カルフォルニア州の干ばつ被害が深刻化していて、弊社のソリューションがサポートできると考えています。
一方、国内では2021年7月に北海道で干ばつによる農作物被害がありました。このように国内でも気候変動の影響が農作物被害、その先の野菜の価格高騰に直結しているので、国内での販売も強化していきたいと考えています。
中長期的には、サブサハラ・アフリカ地域への展開です。
気候変動問題の被害を解決するソリューションをプロダクトとして持っている弊社だからこそ、彼らが明日食べるものを心配しなくていい生活の実現にアプローチできると思っています。
アクプランタが掲げているビジョンへの共感が、その人の大事にしている実体験からくるものであってほしいと思います。やはり、内発的な動機付けがある人は仕事をやり切る能力が高いと期待しているからです。
あとは、自分の半径1mの範囲で何かをするのではなく、知らないところに飛び込んでいくことを前向きに実行できる人がいいなと思います。
きっかけは何であれ、新しいことに挑戦してみることで、自分にとって感度が高い何かに偶然気づけることがあると思います。
私も、農業への入り口はたまたまでしたが、新しいことに挑戦したいという気持ちでモンゴルでの研究を始め、今までの価値観をぶち壊してくれるような実体験を通じて、社会に対する問題意識が芽生えました。そこから少しずつ、問題解決には何が必要かを自分なりに考え、行動してきた結果、どんどん本気になっていきました。
私自身がそうであったように、人は普段の環境を変えてみることで、今まで知りえなかった自分の感受性に気づくことがあります。
まずは、自分の知らない世界に飛び込んでみるのがファーストステップだと思います。そこから自分事と思えるテーマに気づき、自分なりに行動しながらそれを大事に培っていくことで、自ずと想いに変わっていくものです。
その想いを軸に人生の意思決定をしていくことで、世の中の当たり前に捕らわれず、自己矛盾のない人生を全うできるのではないでしょうか。
EVANGE - Director : Koki Azuma / Creative Director : Munechika Ishibashi / Writer : Koki Azuma / Editor : Hanako Yasumatsu, Shota Nakamura / PR : Hitomi Tomoyuki, Megumi Miyamoto / Photographer : Takumi Yano