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カスタマーサポート領域の課題をプロダクトで解決するため、株式会社プレイドの子会社として立ち上がった株式会社RightTouch。同社の代表取締役として活躍する 野村修平(Shuhei Nomura)氏のキャリア形成の軸に迫ります。
野村 修平(Shuhei Nomura)
北海道大学大学院卒業後、ERPパッケージソフトウェア導入を主力事業とするIT系ベンチャー企業のワークスアプリケーションズに新卒入社。最年少で新規開拓法人営業チームのマネージャーへ昇格。その後同社の柱となる既存顧客専任の営業チームを新規事業として立ち上げたのち、アメリカ事業の立ち上げを牽引。帰国後、2018年よりSaaS型の顧客体験プラットフォーム『KARTE』を主力プロダクトとするプレイドに入社し、エンタープライズセールスの立ち上げを担う。2021年12月に社内起業でRightTouchを立ち上げ、現在は同社代表取締役としてビジネス全般をリード。
-- まずは、RightTouchの事業について教えていただけますか?
昨年、プレイドの子会社としてRightTouchを立ち上げ、カスタマーサポート領域の課題解決に取り組んでいます。ウェブサイトにおける顧客の行動データを解析し、カスタマーサポートへ問い合わせに至る前に顧客が課題解決できるようなプロダクトづくりに取り組んでいます。
-- なぜカスタマーサポート領域で事業を立ち上げようと思われたのでしょうか?
プレイドで顧客に向き合っている中で、カスタマーサポート領域の課題の大きさを実感したからです。ウェブ上の手続きが煩雑になる中、今後もカスタマーサポートへの問い合わせはますます増えていく。それに対して人件費の高騰や採用競争の激化により、優秀なオペレーターの確保が追いついておらず、エンドユーザーの自己解決を促進するプロダクトによる課題解決は必然です。
また、カスタマーサポートは大事にするべき既存顧客との接点であり、その顧客体験をどれだけよくできるかが企業の成長における鍵だと、これまでの営業経験から強く感じています。
-- ここからキャリアを遡ってお伺いできればと思います。学生時代はどのように過ごされていたのでしょうか?
ベンチャーキャピタルに興味をもち、どうすればベンチャーキャピタルに入れるのだろうと模索し動いていました。
もともと大学に入学した時点では「何かをやりたい」という気持ちはなかったのですが、私が大学に入学した2000年前後はソフトバンクの孫正義さんやサイバーエージェントの藤田晋さんが新時代のビジネスパーソンとして話題になり始めていたタイミングで、大学の友人達が日経新聞を見ながら自分達も新規事業を起こすのだとあれこれ話していました。
私も影響を受け色々自身で調べる中で、新規事業に投資するベンチャーキャピタルの存在に最も興味を持ちました。特に、アメリカのベンチャーキャピタリストのように事業に入り込んでハンズオン支援ができると面白そうだな、と思いその道を模索するようになりました。
-- ベンチャーキャピタルに入ることはできたのですか?
当時ベンチャーキャピタルへの道は今以上に狭き門で、様々な方法でアプローチしたものの入ることは叶いませんでした。しかし諦められず、ベンチャーキャピタルと繋がりがある北海道大学の教授に教えを受けるため、北海道大学の大学院に入学しました。
そこの授業で出会った地元の優良企業の社長に「ベンチャーキャピタリストがやりたいなら自分でビジネスを起こさないと無理だね。お金は出すことができるかもしれないけどハンズオン支援なんてできない」と言われ考えが変わりました。
どのようなキャリアからスタートするべきかと質問をしたところ「営業じゃないか。ビジネスは何かを売ることができなければ起こせない」という話になり、営業を入り口にキャリアを作っていこうと決意しました。
-- 営業から始めたいと決意された中、なぜ新卒でワークスアプリケーションズを選ばれたのでしょうか?
大学院時代、インターンに応募したワークスアプリケーションズで感じ取った営業のロジカルさに惹かれたことが一番の理由です。
当時私は「営業は接待をして受注を獲得する」というイメージを持っていたのですが、ワークスアプリケーションズでは、営業の先輩たちが、接待ではなく営業をしっかり科学した上で取り組んでいると感じ、自分もここで営業を学びたいと思い、新卒での入社を決意しました。
-- 実際に入社されてみていかがでしたか?
1、2年目は新規事業の立ち上げでうまくいかないことが多かったのですが、COO直下で営業を直接学ぶ蓄積もあって、3年目に既存事業に戻ってから、営業として結果が出せるようになっていきました。
もちろんきつい場面もありましたが、営業のトップから体系的に学ぶことで数字を出せるようになり、以降はマネージャー、さらにその上のVPと呼ばれるマネージャーを束ねる役職へと順調に昇進していくことができました。
-- 順調に昇進されていく中での、転機についてお伺いしたいです。
実はVPに昇格してしばらく経ったころ、会社を辞めようと考えていました。
そもそも営業というキャリアからスタートしたのは「事業をつくりたい」という思いがあったからでしたが、VPになってからもプレイングマネージャーとして組織は作っていたものの、事業づくりに繋がっておらず、これは自分がやりたいことではないと感じていました。
-- 辞めようと思われて、どのようなアクションを取ったのですか?
牧野さん(当時のワークスアプリケーションズ代表取締役)に「自分は事業をつくりたいので辞めます」と言いに行きました。すると牧野さんに「俺なんか制限したか?やりたければ、ワークスの中で事業をつくればいい」と言われ、考えが大きく変わりました。
自分の中で勝手にワークスアプリケーションズは営業をしていく場所、と思いこんでいたのですが「ここで事業をつくる道もある」と気づかされました。
視点を変えて方向性を模索していく中で、既存顧客の売上拡大可能性に着目し、新規事業として既存顧客へのアップセル・クロスセルを専門とする営業(カスタマーセールス)の組織を立ち上げることにしました。
-- 新規事業として、既存顧客領域に着目された理由を教えてください。
誰もやっていなかったが、売上を大きく伸ばす余地があると感じたからです。
当時のワークスアプリケーションズは新規開拓こそ営業であるという文化で、顧客を獲得することに重点が置かれており、既存顧客のフォローが十分にできていませんでした。ただ、改めて既存顧客を見直すと、アップセル・クロスセル余地が大きいことに気づきました。それであれば、既存顧客を専門とした営業であるカスタマーセールスの組織をつくることで、インパクトが大きい新規事業になると感じたのです。
-- 新規開拓営業から既存顧客営業への転換で、難しかったことはありますか?
「顧客の満足度が低い状態からどう関係性を作っていくか」という点です。例えば導入後にほとんどサポートされていないケースや、そもそも営業が連絡した際にコミュニケーションを拒否されるようなケースもありました。私は新規開拓営業が得意だった分、既存顧客に対するフォローコミュニケーションやトラブル対応が苦手で、特に最初の1年は既存顧客の満足度を引き上げるには苦戦する毎日でした。
-- どう乗り越えたのでしょうか?
トラブルの現場に率先して行くようにしました。トラブル対応と聞くとテンションが上がり自ら乗り込んでいく大先輩がいたのですが、トラブル対応に毎回同行してもらい、直接教えを受けました。
「なぜそこまでトラブル対応に積極的になれるのか」とその方に聞いた際、印象に残っているのが「トラブルが解決した直後が一番信頼が高まり、勝手に商談が生まれていく。顧客とより突っ込んだ関係構築のためにトラブル対応に行くんだ」という言葉です。徐々にトラブル対応を経験しながらこの言葉の意味が理解でき、既存顧客営業の極意を学べたことが功を奏し、3年目以降更に既存顧客との取引は拡大して、事業を大きく伸ばすことができました。
-- 新規事業を軌道に乗せた後について教えてください。
ワークスアプリケーションズのアメリカ事業立ち上げに参画することになりました。
アメリカ事業の立ち上げは元々自分自身が立ち上げた新規事業と並行して、少し関わっていたのですが、新規事業が軌道に乗ったタイミングで本格的に軸足を移すことにしました。
-- 日本とアメリカだと商習慣も違うと思いますが、順調に進んだのでしょうか?
日本のビジネス感覚が通用せず、全てがうまくいかないことばかりでした。例えば営業一つとっても、当時日本では相手のオフィスを訪問する対面営業が基本でしたが、銃社会であるアメリカでは、関係値ができていない段階で相手のオフィスに訪問すること自体が非常識とされるなど、そもそもの前提が全く異なります。
営業以外でも、プロダクトのローカライズが十分でなかったことや、アメリカで主流とされていたウェビナーやホワイトペーパーを利用したデジタルマーケティングへのキャッチアップ不足、現地採用の給与水準の高さなど、文化の壁を痛感しました。これ以上事業として投資できない状況にもなり、結果的にアメリカ事業は撤退することになりました。
-- アメリカ事業を撤退することになり、次にどんなキャリアを考えられたのでしょうか?
国内スタートアップに絞りキャリアを模索していました。アメリカ事業では、0→1フェーズの事業グロースと海外でのビジネスという、難易度が高い2つの未経験要素を同時に実現させる難しさがありました。そこで、次はまず国内で0→1フェーズの事業グロースに挑戦しようと考え、国内スタートアップに選択肢を絞りました。
フォースタートアップスさんにコンタクトさせていただいたのもその頃です。
-- スタートアップへの挑戦にあたり、フォースタートアップスのヒューマンキャピタリスト、町野 史宜と中田 莉沙という2人のシニアヒューマンキャピタリストがご支援させていただきましたが、その中でなぜプレイドに入社することを決められたのでしょうか?
プロダクトの強さと自由度の高さです。
町野さんと中田さんにはいくつかのスタートアップ企業をおすすめいただきましたが、プレイドのプロダクト『KARTE』は「webサイトを中心に一見判らない顧客の行動を可視化する」というベースはありつつも、それをどういう分野で活用するかは、顧客と向き合う中で様々可能性があり、新たに0→1で新規事業が作れる可能性を感じました。
またプレイドの事業領域が、アメリカで実感した日本のデジタルマーケティングの遅れに対して課題解決を図っていく事業であったことも入社を決めた要因の1つです。
-- 入社後、プレイドで実際に新規事業としてRightTouchを立ち上げるに至ったきっかけについて教えてください。
『KARTE』を通した課題解決の多くは自由度はありながらも、新規顧客とのコンバージョンを上げていく、攻めのデジタルマーケティングとしての目的が多くなります。
ですが、あるときナショナルクライアント企業3社に対して営業に行った際に、3社連続で「KARTEをカスタマーサポート目的で使用したい」という声を聞きました。
それまでの『KARTE』の使用目的とは異なった使い方であったものの、その時一緒に動いていたカスタマーサクセスの長崎(現RightTouch取締役)と検討したところ、思った以上にカスタマーサポート領域の課題を『KARTE』で解決できそうなことが見えてきました。
当初は『KARTE』をなんとか駆使してカスタマーサポートに課題感がある世の中の多くの企業に応えていくことも考えていたのですが、毎回『KARTE』をカスタマイズしていくことはリソースを考えても現実的ではないため、思い切ってプレイドの経営陣にカスタマーサポート領域でのプロダクト化をプレゼンした結果、事業化することが決まりました。
-- カスタマーサポート領域の事業は、プレイド内で新規事業部を立ち上げる話にはならなかったのですか?
色々と議論はしたのですが、私の中では「最初から子会社として立ち上げたい」という結論が出ていました。
ワークスアプリケーションズでのアメリカ事業立ち上げ時に苦戦した要因は文化の違いも大きかったですが、もう1つ要素を挙げるならば、国内事業と比較した際のアメリカ事業の優先順位の低さもあったのではと見ています。
その構図はプレイドでも起こると思いました。例えば、新規事業におけるプロダクトの開発スピードは事業成長の命ですが、大事な既存顧客を抱える既存事業より新規事業の機能開発の優先順位を上げることは難しい。ですので、プレイドCEOの倉橋と相談し、別会社として立ち上げることにしました。
-- オフィスを分けたことにも意志を感じます。
私たちも最初はオフィスはプレイドと同じ場所でもよいのではと考えていました。ですが、倉橋は一貫して「外に出ろ」と言ってくれました。今考えると、確かに同じオフィスでは聞きたくなくても色々な情報が入ってきて、事業に集中できない可能性がある。今はオフィスとして物理的に切り分けて集中できる空間を作ってよかったと思っています。
-- RightTouchの事業を通して、今後実現していきたいことについて教えてください。
日本の企業が既存顧客をもっと大事にすることで、成長できる世界を作りたいと考えています。私もかつてそうだったのですが、日本の企業は新規営業で顧客を獲得することに目が向いていて、獲得した顧客を本当に大事にする会社というのはまだまだ少ないと考えています。
ですが、私自身ワークスアプリケーションズで既存顧客を大事にした結果、事業全体が大幅に伸びたことや今回RightTouchの事業も既存顧客を徹底的にフォローすることで事業の芽を頂いたという原体験があります。
RightTouchの事業の切り口はカスタマーサポートですが、プロダクトを通してカスタマーサポートの裏に潜む、既存顧客の声への目線を変えることで、日本企業の顧客に対する文化を変えていきたいです。
-- 既存顧客を大事にする世界の実現に向けて、どんな人と働いていきたいですか。
既存顧客を大事にするためにやっていきたいと考えているのでやはり、太く長く顧客と付き合いたいという思考を持っている方と働きたいですね。
また、今の10人規模のフェーズでは、イレギュラーが発生することも多いので、与えられた役割だけではなく「事業を推進していくためにはなんでもやりたい」というスタンスの方に来ていただきたいなと思います。
EVANGE - Director : Koki Azuma / Creative Director : Munechika Ishibashi / Writer : Yukiko Ishii / Editor : Akinori Tachibana / Photographer : Takumi Yano