EVANGEをご覧の皆さん、こんにちは。フォースタートアップスのEVANGE運営チームです。私たちが所属するフォースタートアップスでは累計1,500名以上のCXO・経営幹部層の起業や転職のご支援*をはじめとして、多種多様なビジネスパーソンを急成長スタートアップへご支援しています。EVANGEは、私たちがご支援させていただき、スタートアップで大活躍されている方に取材し、仕事の根源(軸と呼びます)をインタビューによって明らかにしていくメディアです。
今回はEVANGE特別版として、2020年にタイミーへご支援させていただいた取締役CFO八木 智昭氏に再度取材をさせていただき、タイミー入社後のリアルな心境を伺いました。
八木 智昭(Yagi Tomoaki)
2008年に新卒で入行した三菱UFJ銀行において、商銀・信託・証券等のグループ総合取引やストラクチャードファイナンス、シンジケートローン等を中心とした法人営業業務に6年超従事。その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の投資銀行本部にてテクノロジー/インターネット/ソフトウェア/フィンテック業界における上場・非上場企業のIPO、M&A、Debt Financeを中心とする投資銀行業務に従事。SaaSベンチャー(アペルザ)で1年弱ほど、事業推進、ファイナンスを主導した後、タイミーに参画。
入社したばかりの頃が一番大変だったと思います。タイミーは事業会社として2018年にスタートしましたが、それから2年ほど後に私が入社した頃は、コロナ禍真っ只中でした。入社してからようやくキャッチアップができてきたと実感していた時に2回目の緊急事態宣言が発令されました。もうこれは暗闇の中に突入してしまったなという感覚になりました。
一日一日が、本当にジェットコースターのような感じで考える暇が無かったのが正直なところです。組織自体がまだ何も整っていない状況で毎日あちこちに課題が発生して、それを解決して…の繰り返しでした。考える前に動くみたいな状態です。でもそのような環境だからこそうまくいったところもあります。
私は現場に出るのが好きです。実際にタイミーでバイトをすることで、お店の方や物流拠点の方が本当に人手不足で困っているということを目の当たりにしました。また、人手が確保できるとすごく感謝されるということも体感しました。この日本の状況を変えなくてはいけないなと思いましたし、タイミーがインフラにならないといけないというのは、現場に出ているからこそ実感できたと思います。ひたすらデスクワークでオフィスにいてはそこまでコミットができなかったと思います。
そうですね、軸としてありました。現場を見ずして課題は見つからないし、現場に行くからこそその解決策が見つかると思っているので自分で動くことにこだわっていました。現場が分かっていると、意思決定する時でも「こっちの方がよい」とか「いや、こうすべきだ」と発言もできますし、ベクトルを明確に定めることができると思います。
綺麗な"ストーリー"があって、それを執行していくことを大切にしている方もいらっしゃると思います。でも、スタートアップは今までに無いものを作り出す存在です。そもそもストーリーが最初からできあがっているはずが無いですよね。新しいことやイノベイティブなものを作り出しながらストーリーができてくるはずです。私は、綺麗に進めていくよりも現場で泥臭くやっていく方が好きです。
今、経営会議などでも経営陣として意思決定をしているわけですが、いわゆる「左脳と右脳」、または「合理性と非合理性」みたいな形で言うとなかなか両立しがたい。私はもともと銀行など金融機関で働いていたので、「これはこうだからこうやるべきだよね」というロジックをもとに合理性の観点で話をすることが当初は多かったですね。
でも、新しいことをやるためには合理性だけでは語れない、非合理なものがなくてはいけなくて。現場でのお客さんとの会話を通して、これをやらなくてはいけないんだ、合理性がなくても作るべきなんだという感情的なものも出てきます。その合理性と非合理性の両方を持っていることがスタートアップには大切なのかなと思います。
どの会社にもミッションやビジョンがあります。私もタイミーに入社してみんなと一緒にミッションを作りました。でも、文章や言葉を見ただけで、「すごく共感します」とか、「このミッションに人生かけたいです」という人はいないと思います。現場の状況や理想とする世界観とのギャップを見た上でミッションやビジョンを見るとすごく共感するのかなと思います。
現場を見て事業を作るということはこの4年弱で実践してきたのかなと思っています。CFOという役職はコーポレートや経営企画だけをやっていることが多いと思います。私はありがたいことに経理、財務、法務、IRなどのコーポレート全般をやりながらも、人事全般、営業企画管理、広報、情報システム等にも関わらせてもらっています。さらにアライアンス、カスタマーサポートなど、いわゆるバックオフィス以外のところにも関わることができていることは大きいです。
今、社内の取締役は小川と私だけですので、会社全体を見る必要があって、一般的なCFOよりも幅広い形で会社に関わることができていることが、自分の成長にもつながりましたし、成功とは言えないですが、すごく良い経験になっています。
CFOとしても、最初はいわゆる海外機関投資家からのエクイティ調達をしたり、セカンダリー取引で既存株主から海外の機関投資家に移したり、大型のデットファイナンスを行ったり、グローバルオファリングでのIPOを行ったりという、過去の私の経験の全てを駆使して、会社の成長をドライブできたのかなと思います。
これは戦略的でもあったのですが、自分の中の引き出しを全部使って最大限の会社成長や最適な資本政策をつくるという背景もありました。会社にとっても良いですし、自分の成長にもつながる良い経験になりました。
先ほどお話した合理性と非合理性みたいな所なのですが、私は過去の経歴からするとロジカルに物事を考えるタイプではあると思います。でもタイミーに入社して現場にしっかり通って、直感を大切にして感情的なことも加味しながら、意思決定を使い分けるという適切なコミュニケーションが取りやすくなりました。
スタートアップって今までに無い価値を作っていくことが多くて「答え」が無いですよね。金融機関から転職すると「これがベストシナリオだ」みたいなものだったり、過去の先例やロジックを使いがちなのですが、直感も含めた形でまず動いて、自分たちの意思決定を「正解にさせる」という方がスタートアップには馴染むと思います。そのために事業に邁進して事業成長にコミットするという思考回路になったのはタイミーに入って変わったところです。
ファイナンスの知識やコーポレート周りの知識と経験はとても重要です。一方で、教科書的な話になりますが、ファイナンスってあくまでも道具でしかなくて、やりたいことがあるからファイナンスをするという考え方が大切だと思います。「何をしたいか」ということと「どういう状態に持っていきたいか」ということを両輪で考えないと難しいんですよね。資金を調達したとして、それを何に使うかをセットで考えないといけません。そして、それを社外の方や海外の方に説明して説得できないと難しい。
私はタイトルについてはこだわりが無くて、取締役を目指していたわけでも無いですし、取締役のタイトルを持って会社を動かしたい想いは正直無かったです。
タイトルや社内評価に固執すると、言うべきことも言えなくなってしまうとかはありますよね。銀行時代から忖度という言葉が嫌いで、自分の立場になって本質的なことが言えない、意見にバイアスがかかってしまうというのはよくないですよね。評価の話は切り離して、言うべきことは言う、やるべきことはやる。相手が誰だろうが、目的を達成するために意見を出すことは入社した時から変わっていないです。
「経営者」には色々な定義があると思いますが、「自分が社長だったらどう考えるか」ということは大事だと思います。それがないと自分の意見も言えないし、 意思決定にも責任が持てないと思うんですよね。「私はこう指示されたから」のような考え方は甘くて、良い意思決定になりませんよね。色々なバックグラウンドや考え方を持った経営陣が自分の意見を言って、議論して、最終的にそれが会社の意思決定としてまとまっていく。先ほどのお話と重複しますが、社長の意見に反対することもありますし、否定されたらどうしよう、といったことは全く考えません。
あとは、自分の意見をハッキリと伝えて、その後に色々な意見やフィードバックをもらいたいので経営会議の中でも1番最初に発言するようにしています。他の皆が「A案」を押していたら、「B案」って言いづらいじゃないですか。だから1番最初に言うことが自分のスタンスでもあり、本当に考えていることを発信するためには有効なのかなと。100%正解はないので、意見というのは自分がどうしたいのかということと、自分がどこにコミットしたいのかという表れだと思っているので。意思決定をし、信念をもち行動して、それを正解にさせていく。この繰り返しだと思っています。
私はスタートアップに転職して色々な経験ができていると思うのですが、チャレンジした方が良いって本当に思いますね。ちょっとでも迷っているのであれば動いた方が良い。合わなかったとしても、戻れば良いんです。タイミーのビジョンである「一人ひとりの時間を豊かに」という言葉にもあるのですが、人生の時間というのは有限であるので、躊躇していたら勿体無いじゃないですか。
全く新しい経験ができるので、視野が広がります。私は銀行、証券を経験し、スタートアップに転職して今ここにいることは、振り返ってみるとすごく良かったと思っています。
事業が困難な方とか、新しい経験を積めるとか、新しい視野が広がるみたいな、チャレンジングな選択をした方が良いなと思っています。もう先が見えているなという状況で働き続けるのは勿体無いですよね。一つ新しい場所に足を踏み入れると、それは次の新しい世界が見える入口でもあったりすると思うので。
すぐに自分に最適なキャリアとか仕事が見つかるはずはないんですよ。色々な所に足を踏み入れて、どれが1番良いんだろうなと自分で確かめた方が良いですよね。タイミーも大人版「キッザニア」みたいな形で、 大人になってからでも色々な仕事を経験することによって、自分にこんな可能性があったんだと気づいて、次のチャレンジに繋げてほしいというミッションを持っています。
「キャリア」という部分だけ切り離してしまうと、視野が狭くなってしまうのですが、「人生」という単位で考えたら、チャレンジをすることのリスクなんて小さなことだと思えるのではないかと。
色々な経験をし、チャレンジをして、失敗をしてもそれが糧になって、新しい世界観が広がる。どれだけチャレンジの積み重ねをしっかりできるかですよね。キャリアというより人生という単位で物事を捉え、有限であるこの人生の中でどう悔いなく生きるかっていうことをよく考えています。
例えばファイナンス分野だけにずっと携わっていたら、伸びしろがほとんどないと思います。100点満点中、95点、96点、97点みたいなギリギリを攻める感じになります。だったらファイナンスで100点、他の分野で100点、100点、合計300点を目指せばトータルで変わってくると思います。他の業務分野を経験することによってファイナンスにもその経験が活きてきて、95点が99点になるかもしれないと思うと、一つの分野に閉じるということはすごくもったいないなと思います。さらに400点、500点と分野が広がっていけばなおさら点数は増えますし、経営者であればなおさら、そのように様々な分野での積み重ねが大事になってくるのだと思います。
とにかく色々な経験をしたいですね。会社の中でも部署や役割を越えてチャレンジさせてもらっていますし、国際協力、海外ボランティアも続けていきたいです。海外でのビジネスにも携わっていきたいと思っています。
挑戦をしたい人がチャレンジできる場所を会社として用意することも大切だと考えています。
先ほどの時間の使い方の話に通じますが、失敗を恐れずにチャレンジをしたり、今までやってこなかったことに足を踏み入れる、そういった気概を持っている人にぜひ来ていただきたいです。
国内未上場スタートアップにおけるデットファイナンスの流れに大きなインパクトを与えた八木さん。「ファイナンス」や「経営」といったアジェンダを中心に話をお伺いしました。一番盛り上がったテーマが「人生の時間の使い方」だったのはとても素敵なサプライズでした。
人の生きる時間には限りがあって、その大半を占める「働く時間」。この中でいかに人生を楽しめるかという点について、ご自身のこれまでのご経験や、根本にあるモチベーションの源泉からお話いただき、私にとっても大きな学びになりました。
「挑戦」から「仕事」が変わり、「仕事」を通じてより良い「人生(生き方)」を追求する。どのような人生の分岐点においても、「一歩踏みだす勇気が欲しい」という思いを抱えていらっしゃる方にぜひ読んでいただきたいと感じました。
玉城 夢大(フォースタートアップス株式会社 タレントエージェンシー本部 / シニアヒューマンキャピタリスト)
EVANGE - Director : Kana Hayashi / Creative Director : Munechika Ishibashi / Interviewer : Mudai Tamashiro / Writer : Kozue Nakamura / Editor:Daisuke Ito / Assistant Director : Makiha Orii / Photographer : Shota Matsushima