「自分の枠をつくらない」ソラリスCOO 前久保 勝好氏が挑む ”やわらかいディープテック”

2023-06-28

人工筋肉を搭載した「やわらかいロボット」により、剛性の高い従来のロボットではできない作業を実現し持続可能なものづくりに貢献する株式会社ソラリス(以下、ソラリス)。同社の取締役COOとして事業を推進する前久保 勝好(Katsuyoshi Maekubo)氏のキャリア形成の軸に迫ります。

“ニューエリートをスタートアップへ誘うメディア” EVANGEをご覧の皆さん、こんにちは。for Startups, Inc. の橘 明徳(Akinori Tachibana)と申します。私たちが所属するfor Startups, Inc.では累計650名以上のCXO・経営幹部層のご支援を始めとして、多種多様なエリートをスタートアップへご支援した実績がございます。EVANGEは、私たちがご支援させていただき、スタートアップで大活躍されている方に取材し、仕事の根源(軸と呼びます)をインタビューによって明らかにしていくメディアです。

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前久保 勝好(Katsuyoshi Maekubo)
北海道大学法学部卒業後、2007年に新卒で株式会社IHI(以下、IHI)に入社し、防衛省向けの航空機用ジェットエンジンやガスタービンの営業/調達業務に従事。2016年より社内の新規事業部門へ異動し、シリコンバレーのスタートアップ企業との協業など新規事業の推進を担う。2020年よりフューチャーベンチャーキャピタル株式会社(以下、FVC)に参画し、ハードウェア系スタートアップのソーシングからビジネスデューデリジェンス含む投資業務・ハンズオン支援を実行。2022年10月に株式会社ソラリス(以下、ソラリス)へ参画。2023年4月からは取締役COOとして事業を推進。

目次

  1. 柔よく剛を制す。「やわらかさ」でロボットの可能性を広げていくソラリスの事業内容
  2. 理屈ではなく価値観。人々の生活を支えるインフラを支える仕事がしたい。
  3. 「自分がプロジェクトを動かしたい」ターニングポイントとなった新規事業部への志願
  4. 大企業の外でチャレンジしたい。きっかけは留学先のシンガポールで言われた日本のビジネス評。
  5. 手つかずのインフラ領域。縁を感じた直感よりソラリスへ。
  6. 道を拓くカギは「枠を作らない」やわらかさ。
  7. 前久保さんをご支援したヒューマンキャピタリスト

柔よく剛を制す。「やわらかさ」でロボットの可能性を広げていくソラリスの事業内容

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-- まずはソラリスの事業内容を教えてください。

人工筋肉を搭載した「やわらかいロボット」により、配管など剛性の高い従来のロボットでは入り込めない場所での作業の実現を目指しています。

いま主に進めている事業は2つ。1つは点検手段が無かった細く曲がりくねった配管を自立走行で検査することができる配管検査ロボットの開発。

もう1つは人間の腸の動きを模倣した腸管型ポンプで、高粘度流体や食品などを優しく傷つけることなく運搬できるポンプ事業です。

-- その中での前久保さんの役割を教えてください。

大きくは技術面を見ています。ベースとなるプロダクトの0→1開発は完了しているのですが、お客様への導入を進めながらどういう形であればパッケージとして売れるかを考え形にしていく仕事がいまは中心です。

理屈ではなく価値観。人々の生活を支えるインフラを支える仕事がしたい。

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-- キャリアの変遷を、過去に遡ってお伺いさせてください。新卒でIHIに入社されていますが、学生時代のことや当時の企業選びの軸を教えてください。

生まれ育った関西から遠くへ行きたいと大学で北海道に行ったものの、ずっと国内で暮らしてきたことから海外に対する憧れがあり、漠然とですが「いつか海外で大きなプロジェクトをやりたい」という想いを抱いていました。

就職活動ではグローバルな展開をしているメーカーと商社を中心に選考を受け、最終的にIHIと商社にしぼられましたが、IHIの海外プラント営業担当の方がキラキラとした様子で話してくれた内容が自分にとても刺さりIHIに入社することにしました。

-- どんな内容だったのでしょうか?

「自分が売ったものが世界中の方の役に立ち、たくさんの方を助けられる」という話です。人々の暮らしを支える根幹のインフラという領域が、自分の価値観と合っていました。

-- インフラに対してなにか原体験があったのでしょうか?

昔からどうせ仕事をするなら世界中の人々に必要とされていると私自身が感じられる仕事がしたい、と考えていました。

逆にそれに当てはまらない仕事は例えどんなに待遇がよくても興味が持てません。インフラに対して特別な原体験があるわけではないのですが、理屈ではなくこれが私の価値観なのだと思います。

「自分がプロジェクトを動かしたい」ターニングポイントとなった新規事業部への志願

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-- IHI入社後について教えてください。

入社後は約9年間、防衛省向けのジェットエンジンやガスタービンの営業/調達業務に従事したのち、志願して社内の新規事業部へ移りました。異動先の新規事業部では新規商品の立ち上げや自社とスタートアップとの協業、いわゆるオープンイノベーションの推進役を担当していました。

-- 新規事業部への異動は大きなターニングポイントだと思うのですが、経緯を教えていただけますでしょうか。

入社以来担当していたジェットエンジンやガスタービンの仕事は、一つが数百億円という巨大なプロジェクト。関わる人も非常に多く、関係者は100人以上いるほどでした。

就職活動の時は大きなプロジェクトに憧れていましたが、やっていくと「このプロジェクトを実現したのは自分だ」と言えるような手触り感を感じにくいことにもどかしさを覚え、小さくても良いので自分でプロジェクトを動かしてみたいと強く思う様になりました。

そんな時に社内の当時10人ほどの新規事業部で人を集めているタイミングがあり「これだ!」と思い、すぐに異動したいと新規事業部の方や当時の上司に話に行きました。何回か話すうちに熱意が伝わり、異動が叶いました。

-- 新規事業部では新規商品の立ち上げのほか、スタートアップとの協業を推進されていたということですが、どういう形で進められていたのでしょうか?

IHIがベンチャーキャピタルに出資していたこともあり、こちらから興味のある分野を伝えると、関連性のあるスタートアップを紹介していただけました。また、海外ではスタートアップに関する様々なイベントがあります。ピンポイントに分野を絞りながら「こういうスタートアップないかな」と探して接点をつくりながらプロジェクトを進めていました。

-- スタートアップとの協業がうまく進まないことも多かったのではないでしょうか。

そうですね。当時のIHIでは新しいことをやるにあたって手がいっぱいで、最初は社内でもスタートアップとの協業はあまり注目されていませんでした。

ですが、IHIの工場内で使われているピッキングロボットにAIを搭載するという、先輩が取り組んでいたアメリカのスタートアップとの協業プロジェクトがビジネス的に成功してからは風向きが変わり、前よりも積極的に進める方向に変わっていったと思います。

大企業の外でチャレンジしたい。きっかけは留学先のシンガポールで言われた日本のビジネス評。

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-- その後FVCに転職されます。スタートアップとの協業が形になっていった中でなぜ転職しようと思われたのでしょうか?

IHI在籍中、シンガポールにある南洋理工大学のMBAに留学した際の授業内容が大きかったです。

その授業は「日本企業に焦点を当てたもので、グローバルでプレゼンスが低下しているのは終身雇用による労働市場の硬直が原因の一つではないか」というものでした。

私は授業で数少ない日本人の一人で、議論のたびに意見を求められたのですが、例えばなにかを承認するときの決裁プロセスの長さなど、ディスカッションすればするほど大企業起点で新規ビジネスを発展させていく構造的な難易度の高さを感じるようになりました。そこで、スタートアップ起点で新規ビジネスを伸ばすことに関わりたいと思い、帰国後に転職活動を始めました。

-- 30代半ばではじめての転職活動だったと思いますが、当時はどの様な軸で動かれていたのでしょうか?

IHI時のベンチャーキャピタルとのやり取りから、スタートアップのエコシステムでベンチャーキャピタルが重要な役割を果たしていることに気づき、ベンチャーキャピタルを中心に転職活動をしていました。スタートアップ企業も同時に探していたのですが、その時は自分にも1つの企業にコミットする覚悟と自信がまだなく、複数のスタートアップに対して役にたてる仕事ができると思い、ベンチャーキャピタルを優先していました。

その中でも当時FVCは「ロボットものづくりファンド」という事業が立ち上がったばかりで、それを任せていただけるということで入社を決めました。

-- IHIとFVCでは協業先か投資先という違いはあれど、パートナーとなるスタートアップを探してプロジェクトを進めていくという意味では近い部分も多いと思いますが、なにが一番大きく変わりましたか?

一番変わったのは「自分の意志で動く必要がある」という点です。IHIの時は自社の課題を解決するためのタスクが目の前に山ほどあって、それをこなすということが重要でした。一方FVCでは「すべてを決めるのは自分自身」というスタイル。

自分がどのように価値発揮していきたいかを決めてからは、制限がない分、コミュニティに参加したり人づてで企業を紹介してもらい接点を持ちに行くなど、逆に今まで以上にやれることはなんでもやれるようになりましたが、最初はとまどいもありました。

手つかずのインフラ領域。縁を感じた直感よりソラリスへ。

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-- 2年ほどFVCに在籍した後、再び転職をされますがきっかけを教えてください。

ベンチャーキャピタルとして外側からスタートアップのビジネスを支援することに物足りなさを感じるようになったためです。

ハンズオンで投資先に入ることもありました。しかしハンズオンの範囲や深さには限界があります。営業面でのマッチングや人材紹介などの支援はできるものの、徐々に物足りなさを感じるようになりました。より一つの事業にコミットして事業創りに携わりたいという想いから、次はスタートアップ企業に転職しようと決意しました。

-- その際にフォースタートアップスのヒューマンキャピタリスト倉田 拓にコンタクトいただいたかと思いますが、当時印象的だったことについて教えてください。

自分でも言語化できていない転職軸に対して、倉田さんからの本質的な問いが印象に残っています。

お会いした際に「前久保さんは既に多くのスタートアップと接点を持っているはず。これまで接点を持った企業に入ろうと思わなかったのはなぜですか」など、仮説を持ちながら質問していただいたことで、プロダクトが市場の中でも尖っており、かつ立ち上げフェーズの企業もしくは役割を担いたいという自分自身の転職軸が整理されました。

その中で提案いただいた企業の1社がソラリスでした。

-- ソラリスへの入社を決めた背景について教えてください。

転職軸に合致していたことに加え、運命的な縁を感じたことも要因の1つだったかもしれません。

ちょうど転職活動の数ヶ月前に「クレイジーで行こう」という東工大出身のロボットベンチャーを作っている方がアメリカで配管検査ロボットを開発するという本を読んでおり、配管検査という領域への興味を抱いてました。ソラリスという会社を知ったとき、これから日本のインフラも老朽化していく中、手付かずでいる課題にインフラとしての必要性を感じ、最後は直感もあってソラリスへの入社を決めました。

その本を読んでいなければ、もしかしたら配管検査領域へ興味を抱けずソラリスへ入っていなかったかもしれません。縁だなと思います。

道を拓くカギは「枠を作らない」やわらかさ。

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-- スタートアップのCOOというとやることがたくさんあると思うのですが、入社前と実際に入社されてからでギャップはありましたか?

入社する前は人事、営業などなんでもボールを拾わないといけないんだろうなと思っていましたし、なんでもやるという意味ではギャップはなかったです。ただ1つ予想外だった点を挙げるとすると、技術面に対して私が深く見るという状況は予想していませんでした。

ソラリスはハードウェアの研究開発型スタートアップ。ソフトウェアと違いプロダクトの更新や改善に時間がかかる分、広く営業して売り出す前に製品レベルを高めるためのプロジェクトマネジメントの必要性をより感じています。

-- ディープテック領域に関しては、2022年頃から岸田政権も力を入れていくという話題も出ていますが、前久保さん自身以前と比較してディープテック領域の流れとして変わったなと感じる部分はありますか?

例えば3年前ならディープテック分野の資金集めはなかなか苦労したと思いますが、最近は補助金などお金の流れがディープテック分野にきていると感じます。宇宙領域やIoTなどスタートアップの話題も資金調達額もディープテックの層が厚くなってきたなと肌感覚ではありますが感じていますね。

-- 今後前久保さんのように大企業で働いていた方がディープテック領域のスタートアップに転職を検討するケースも多くなっていくことが予想されます。実際に経験された側としてどのような言葉をかけたいですか?

「枠を作らない」ことが大切だと考えています。

スタートアップではなんでもやらないといけない場面が起きやすいからこそ、大企業で「この領域だけしかやらない」という働き方をしていると、どうしてもミスマッチになってしまう確率が高くなってしまうと思います。

私自身、興味のあることにどんどん顔を突っ込んできたからこそ、様々なことを経験することができたと感じています。手を広げていくうちに物足りず新しいことをやりたくなるような人がスタートアップ企業に向いていると感じます。

今は社外の副業が解禁になっている企業も多いですし、今大企業にいてスタートアップに関心がある方がいたなら、ぜひ自分自身が興味のあることにどんどん挑戦してみると道が拓けるのではないでしょうか。

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EVANGE - Director : Hanako Yasumatsu / Creative Director : Munechika Ishibashi / Writer : Kozue Nakamura / Editor:Noda Shota, Akinori Tachibana / Assistant Director : Makiha Orii / Photographer : Shihoko Nakaoka

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