「今この瞬間、やっていることに意味がある」投資銀行を経て、ispace CFOとなった野﨑 順平氏が語るスタートアップで働くマインドセット

2019-07-17

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野﨑 順平(Jumpei Nozaki)
東京大学文学部社会心理学専修過程卒業、大学在学中にイギリスのエジンバラ大学に留学。2005年に新卒でメリルリンチ日本証券入社、投資銀行部門にて主に自動車セクター・石油セクターを担当し、資金調達・IPO・M&A等のアドバイザリ業務を行う。2017年にispace入社、EVP Finance Controlを務める。2018年より取締役CFO。

目次

  1. 月面開発を民間で手掛けるispaceとは
  2. 「企業の起こすアクション」に惹かれて投資銀行へ
  3. 世界を飛び越えて宇宙で活躍するスタートアップへ
  4. スタートアップに飛びこむには、不確実性を恐れない心が必要

月面開発を民間で手掛けるispaceとは

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-- 早速ですが、ispaceの事業について教えてください。

ispaceは民間初の商業的な月面開発を目指した事業・研究開発を行っております。今までは宇宙産業はNASAやJAXAなどの国の宇宙機関が主体的に取り組んでいましたが、先日堀江さんが出資するインターステラテクノロジズ「MOMO」の打ち上げが遂に成功したように、民間企業がどんどん参入しています。

その中でも私たちは中長期的な月面の資源開発事業を展開し、今は初期段階として月に物資を運ぶ輸送プラットフォームの確立を目標にランダー(月面着陸船)とローバー(月面探査車)の開発、製造をしています。

-- 月に輸送する荷物としては、 例えばどんな物を想定されていますか?

ペイロード(クライアントが運びたい荷物)は様々ですが、初期段階では実験機器等が中心になると想定しています。

月面環境はまだまだ未知数で、大気がない中で-150℃~100℃まで変化する気温、ダイレクトに降り注ぐ放射線の影響、地形や地盤がどうなっているのかなど、全てにおいてデータが圧倒的に不足しています。なので、まずはそのデータを取得することから始まります。

データを取りたいというニーズは様々な宇宙機関や研究機関、民間企業からあるので、観測機を月に運び、リアルタイムで観測データを地球に送って提供していきます。

-- 月面の調査はNASAやJAXAなど国の機関が自ら行なっているイメージが強いのですが、民間企業がいつから宇宙事業に取り組んできたかなど、今までの歴史について教えていただけますか?

1972年のアポロ17号のミッションで人が最後の月面着陸を行って以来、NASAは長い間有人による月面着陸を行っていません。

なぜかというと月の本当の価値がまだ知られていなかったからです。それでも月を目指していた時期があったのは、1960~1970年代にかけて冷戦の中で米ソが莫大な予算を使い、国家の威信をかけて宇宙開発をしていたという背景があります。

しかし、90年代の後半から月に水資源が存在することの証拠が発見され始め、一気に資源開発の機運が高まり、アメリカ、ロシア、中国、インド、日本など各国が再び月を目指すようになりました。

技術面から見れば月面着陸は、1970年代に既に達成しているので決して不可能なことではありません。ただ民間企業の場合、限られた資金や人や時間の中で挑戦しないといけないという制約があります。

「企業の起こすアクション」に惹かれて投資銀行へ

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-- 現在は、宇宙へ果敢にチャレンジされている野崎さんのファーストキャリアは金融ですね。前職のメリルリンチでのお仕事について教えていただけますか?

証券会社の中の投資銀行業務で、クライアントの資金調達や投資家対応、M&Aのアドバイザリ等をしていました。

-- 現職とは異業種ですね。そもそも、新卒でメリルリンチに入社された経緯を教えていただけますか。

学生の時に、企業が大きな工場を作る、買収をするなど「企業の起こすダイナミックなアクション」に興味がありました。当たり前ですが、その全ての源には「金」が関わっており、企業活動のベースとなる資金面に直接関わりたいと考えました。そこで、金融業界の中でも、特に財務やM&Aといった企業戦略を通じて、社長を含めた経営陣の近くでアドバイザーとして働ける投資銀行を選びました。

-- 経営陣もさることながら投資銀行には魅力的な方が多いですよね。メリルリンチ時代、尊敬している上司の方はいらっしゃいますか?

2人います。1人は既に投資銀行を辞められて、現在日本の大手メーカーの要職に就かれている方です。私が入社して最初の5年間くらい、箸の上げ下げから一個人としてキャリアを築いていく上でのマインドセット、顧客への誠意の尽くし方に到るまで、社会人の作法を教えて頂きました。

2人目は、元々商社から転職して来られた方で、仕事で長い間先輩としてタッグを組ませて頂いた方です。ビジネスの進め方、考え方を全て教えて頂きました。たとえば交渉などの場面で、クライアントに対してどういう対応でどういう言葉をかけるのか、英語のディスカッションでの話し方や、間の取り方など、今の自分を作っているビジネスマンとしての基礎はすべてこの方から学びました。

世界を飛び越えて宇宙で活躍するスタートアップへ

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ispace社の超小型ランダー(写真中央)と超小型惑星探査ローバー(写真下)のプロトタイプ

-- 魅力的な上司や同僚に囲まれて投資銀行でご活躍されていた中、どうして転職を考え始めたのですか?

アドバイザリーの仕事は企業という当事者に対してアドバイスはするものの、リスクの取り方は、やはりアドバイザーとしてのものであり、どうしても間接的なものになってしまいます。その立ち位置は、社会の中で一定の役割はあると思うのですが、自分の人生を考える上では物足りない、我慢できないと感じたことが一番大きいです。

資金調達や投資家対応なども、横からのサポートではなく、自分自身が当事者として実行する役割を担いたいと思うようになりました。


-- 何か具体的に、転職しようと決意した「きっかけ」はありましたか?

転職するタイミングだと思ったのは、産業のあり方、企業のあり方が大きく変わってきているということを肌で感じたからです。今は第4次産業革命とも言われていますが、どんどんスタートアップ企業が日の目を浴び、存在感が高まるようになってきました。

例えば、自分が担当していた自動車業界においては、自動運転やMaaS(Mobility as a Service)など業界構造を根底から変える100年に一度の大変革が起きていました。その中で大手プレーヤーがスタートアップとの連携を見据え始めていました。

それを見ていて、この変革の時代に生きている以上、今が大事なタイミングだと判断し、転職を決意しました。

-- いざ転職活動をする際に、どんなスタートアップを見ましたか?転職軸など教えてください。

スタートアップを中心に見ていて、その中でも3つの軸を元に探しました。

1つはモノづくりのスタートアップであること。

自分が自動車業界や石油業界を見てきて、大規模な工場設備や製造ライン設備に素朴にワクワクしていましたので、エンジニアがいる環境でリアルな物を作る仕事がしたいと考えていました。

2つ目は世界に通用する様な固有の強みを持っていること。

3つ目はグローバルなビジネスを展開する企業であることです。

正直、この3つの条件はハードルが高く、すべて当てはまるスタートアップは当時、ほとんど見つかりませんでした。

その中で、for Startupsのヒューマンキャピタリストである中村優太さんと古高琢斗さんにお会いしまして、この3つのこだわりをお話した際、「世界を飛び越えて宇宙はどうですか?」と言われました(笑)

最初は「何言ってるのかな」と思いましたが、よくよく話を聞いていくうちに、そもそも宇宙でビジネスをする時点で国籍はほとんど関係ないですし、グローバルにビジネスをしていることに代わりはないと思えてきました。

スタートアップに飛びこむには、不確実性を恐れない心が必要

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-- ispaceでの野崎氏の役割について教えてください。

財務の最高責任者を任せていただいており、特に今の会社のフェーズで大事な仕事が2つあります。

1つ目は財務・経理基盤を整えることです。

会社としての信用を担保するためには財務と経理のシステムが機能していなければなりません。ispaceに入った当時はまだ規模が20人くらいで、経理を含めたお金を管理するシステムが十分になかったので体制を整えています。

2つ目は資金調達です。

宇宙ビジネスは莫大な資金が必要であり、かつスタートアップということで、継続的な資金調達をどのように行うかが重要なテーマとなります。投資家の方とお話しをしながら自分たちの会社や事業のストーリー、将来のリターンなどを理解して頂き、資金を集めてくるという会社にとって重要な仕事をしています。

-- メリルリンチ時代と今の働き方では色々と変わったとは思いますが、大きく変わったことはどんなところですか?

業界も仕事内容も全く違いますが、最大の違いは、より「当事者である」ことを実感しています。

ファイナンスに限らず人事、総務、内部管理も任せて頂いており、日々経営に関わる判断と決断をしています。その結果は全て自分と自分達の会社にダイレクトに跳ね返ってくることを実感しています。

仕事は素直に楽しいです。前職と比べると本当はispaceの方がずっと不確定要素を多く含み、先行きも見え難いはずですが、逆に昔抱いていた「自分の人生は今後どうなっていくのだろう」という漠然とした悩みは一切なくなりました。

今この瞬間にやっていることに意味があり、また新たな経験と学びが自分の力になっていることが喜びです。

もちろん会社の中では良いことだけではなく大変なことが様々に起きて、辛いこともありますが、1つ1つ乗り越えていく経験が楽しいです。

-- 歴史ある企業とスタートアップの両方で働いた経験のある野崎さんに聞きたいのですが、どんな方にスタートアップに入って来て欲しいですか?

いくつかありますが「uncertainty(不確実性)」を恐れない人です。

大企業で得たノウハウをスタートアップに来てそのまま当てはめようとしても絶対に機能しません。例えば私が抱いてきた常識は、投資銀行のアドバイザリーでかつ大企業との関係だけの、限られた世界のものでした。

もちろんキャリアを長く積み重ねてきた後に、全く知らない世界に飛び込むことには不安が付きまとう事も理解できます。しかし、自分のマインドセットや常識をキャリアを積み上げた30歳後半を超えても変えられる柔軟性、そして「uncertainty」の中でも自分の軸を定めて楽しむマインドがスタートアップで戦うために必要不可欠です。

これは常に自分にも言い聞かせています。

EVANGE - Director : Kanta Hironaka / Creative Director : Munechika Ishibashi / Assistant Director : Yoshiki Baba / Assistant Writer : Ryosuke Ono / Photographer : Jin Hayato
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