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日本においても普及し始めたQRコード決済。その中で国内のQRコード決済シーンをリードし続け、世界的なキャッシュレス普及を目指すフィンテック企業 株式会社ネットスターズ。同社の取締役CFOに就任した安達 源(Gen Adachi)氏のこれまでのキャリア形成と意思決定の軸、今後のビジョンに迫ります。
安達 源(Gen Adachi)
慶應義塾大学法学部卒業後、2013年シティグループ証券株式会社に入社。投資銀行部門にて主に株式・債券による資金調達関連業務に従事。2015年にゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。投資銀行部門のヴァイス・プレジデントとして、国内外のクライアントに対する幅広い資金調達関連業務に従事。2019年にシンジケート部 部長となり、年間200件以上の資金調達案件を経験。2021年9月株式会社ネットスターズ取締役CFOに就任。
-- ネットスターズの事業内容についてお伺いできますか?
弊社の事業内容は、大きく2つの柱があります。
1つ目は、国内外のあらゆるQRコード決済サービスに対応する、マルチQR決済ゲートウェイサービス「StarPay」です。StarPayをご利用いただくと、国内外の主要なQR決済ブランドとの個別契約は不要で、まとめてご契約いただけます。現在、拠点数にすると約30万拠点のお客様にご利用いただいております(2021年11月時点)。
もう1つの柱が、スーパーアプリ上で動作するミニアプリの開発プラットフォーム「StarPay-mini」です。QRコード決済の利用が先行している中国や東南アジアでは、スーパーアプリと呼ばれる、日常生活のあらゆる場面で活用できる統合的なアプリが広がっています。
たとえば、旅行の支払いや予約、それにかかる保険の契約など、全てを1つのアプリ内で完結できます。スーパーアプリ上の各機能はミニアプリと呼ばれ、スーパーアプリはミニアプリを充実させることで、ユーザー1人当たりの獲得時間を競っています。
日本でもLINEやPayPay、d払い、au PAY等がスーパーアプリ戦略を公表しており、今後、スーパーアプリを目指すために、ミニアプリでエコシステムを作っていく動きは広がっていくと想定しています。
-- 具体的な事例について、教えていただけますか?
弊社が直近手がけた事例は、羽田空港のLINEミニアプリ版「HANEDA Shopping」です。「HANEDA Shopping」は、LINEの中に羽田空港専用のECアプリを開設することで、LINEユーザーであれば新たにアプリをダウンロードしなくても、LINE内で簡単に空港限定商品や機内食など、羽田空港が厳選する商品を購入できるサービスです。
-- QR決済とミニアプリ、スーパーアプリという確実に来たる未来に対してソリューションを提供されており、今後の展開が楽しみですね。
日本でも流行に敏感な様々な業界の企業が、DXソリューションの柱の1つとしてミニアプリに注目しているのを感じています。弊社は、スーパーアプリを目指すQRコード決済各社とStarPayを通じた深い関係性があり、今後はStarPay-miniによりミニアプリ・スーパーアプリを広げ、DXを推進していきます。
-- その中で安達さんの役割についてもお伺いできますか?
取締役CFOとして、企業価値向上に関わるステークホルダーの皆様とのリレーションメンテナンス、およびファイナンス全般、そして、管理本部が管掌配下にありますので、コーポレートサイドも全て見ています。守備範囲は、想像していたよりも広がりましたね。
-- 前職と比べて、良いギャップでしたか?
そうですね。前職で自分が守っていた守備範囲が、野球でいうところのファーストだとしたら、今はそこに加えレフトとかライトも守っている感覚ではあります(笑)。
とはいえ、私を含め他メンバーと共に「会社を良くしたい」あるいは「ビジョン実現に向けて会社を前に進めたい」という一心で動いています。そのため、役割の多さよりも、面白さが勝っていますね。
-- ありがとうございます。それでは現在に至るまでの安達さんの過去を辿らせてください。日本で生まれ、幼稚園はドイツ、小学校から中学校までは台湾、そして高校は再びドイツと国際経験豊かでいらっしゃいますね。
レジュメ上は国際経験豊かに見えるかもしれないですが、父親の仕事の関係で転々としていただけですので、私としては国際経験豊かという意識はあまりありません。
ただ、今振り返ると台湾の経済成長真っ只中を経験できたことは、非常に面白かったです。
物価も上がり、国も成長していく。ゴミがいたるところに捨てられていたのが、街がみるみるうちに綺麗になり、生活の質も向上していく。まさに成長真っ只中の台湾でした。余談ですが、近所の餃子屋のおじいちゃんも、開業した2年後にはベンツに乗っているような世界でしたね。
-- 大学では帰国され、新卒でシティグループ証券株式会社(以下、シティ)に入社されていますが、元々金融業界にご関心があったのでしょうか?
正直なところ、就職活動期に金融業界へ強い関心があったわけではありません。きっかけは経済小説シリーズの「ハゲタカ」を読んで、楽しそうだなと(笑)。就職活動時にはいくつかの外資系投資銀行の選考を受け、その中でも1番最初に内定をいただけたのがシティ。不思議なご縁を感じ入社しました。
-- 所属した当時のチームでは、若手はほぼ安達さんだけであったと伺いました。タフな環境だったのでは?とも推察しますが、安達さんにとってはどのような環境だったのでしょうか?
非常に運がよかったと捉えています。先輩方には厳しくも優しく鍛えていただきましたし、大変なことも、難しいこともたくさんありましたが、クライアントの皆様にも大変助けられ、非常に成長できた環境であったと思います。
-- 業務を進めていく中で、意識されていたことはありますか?
目指している目的地をぶれずに持ち続けることです。案件にせよ、自分のキャリアにせよ、やらなければならないこと、やった方が良いことは有象無象に存在しますし、上席やクライアントのコメントもある。そうすると、いつの間にか方向を見失って、本当は北海道を目指していたはずなのに、気づいたら真逆の沖縄にいた、といったことが起きます。
そのため、方向性に悩んだ時やミスをした際には、自分はどの方向に、どこに辿り着きたかったのかを振り返るようにはしていました。
-- ゴールドマン・サックス証券株式会社(以下、ゴールドマン・サックス)へご転職されたのは、どんなきっかけだったのでしょうか?
きっかけは、尊敬する先輩が2人とも、ゴールドマン・サックスへ転職したこと。投資銀行の場合は、どの企業にいても基本的な仕事内容は大きく変わらないため、「誰と働くのか」が大事な要素になります。そのため、その先輩達の存在は大きかったです。加えて、誰もが知る企業であるゴールドマン・サックスの凄さを、実感してみたいという想いもありました。
-- 実際にその凄さはどんなところにありましたか?
個々人の高いプロフェッショナル性とチームワークを大事にする文化がゴールドマン・サックスの凄さに集約されるのではないかと思います。
ゴールドマン・サックスに転職したことで感じた、シティならではの凄さももちろんありました。ただ、ゴールドマン・サックスは、様々なタレントがいて、プロフェッショナル集団だと感じましたね。
何かのプロダクトに秀でている方もいますし、ジェネラリストとして六角形のスキルチャートの面積がすごく広い方もいます。コミュニケーションスキルが抜きん出て優れている方もいれば、資料作成が上手い方もいました。
その上で、全員がチームワークを大事にする文化がありました。綿密にお互いの認識や、目指したい方向性のズレを少なくするためのアクションを重視しており、そこから得た学びは非常に多かったです。
-- ご転職を考えられるきっかけは何だったのでしょうか?
まずは自分の家族と向き合うために、投資銀行業界からは一度離れてみようと思ったことがきっかけです。
その後、転職を具体的に考える中で、企業においてファイナンスが故に至る過程(ファイナンスによって行き着く企業の未来とその過程)をより深く、当事者として経験したい気持ちが強くありました。
もちろん、シティやゴールドマン・サックスでの業務は、新たな学びと刺激が次々に生まれてくるので、非常に楽しかったです。その経験を活かしながらも、当事者として携わるには、スタートアップのCFOをやることが自分の理想に近いのかなと。
このようにおぼろげに考えはじめたところで、フォースタートアップスのヒューマンキャピタリストの方とお会いしました。二人三脚で相談しながら転職活動を進められたのは大きかったです。かなり密にフォローいただき、余分な選考プロセスもありませんでした。交渉事も本当に滞りなく調整いただき心強かったですし、感謝しております。
-- スタートアップを検討される上で、どのような観点を大事にされていたのですか。
株主構成、事業、そして人との相性とビジョン共感ですね。
株主構成については、しっかりデューデリジェンスをしている投資家が投資を決めていることは、1つ強力なエビデンスになると考えていました。そういった意味では、ネットスターズはコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)様、LUN Partners様を始めとした、そうそうたる株主の皆様がいらっしゃいますので、株主構成には注目していました。
事業の観点については、将来性と自分自身が事業に対する興味をしっかり持てるかという点を大事にしていました。会社の規模や収益だけを見れば、弊社よりもさらに伸びる可能性のあるスタートアップは他にもあったかもしれません。ただ、「DX化」が昨今の日本においてもキーワードとして挙げられる中で、ネットスターズの事業の面白さと未来の選択肢の多さが、非常に魅力的に感じました。
あとはとにかく、代表取締役社長 李の話と人柄に非常に惹かれました。これまでのスタートアップならではの紆余曲折を包み隠さず話せてもらえたことに加え、事業や会社の未来についてはっきりとしたビジョンがあり、今後の構想も刺激的で共感する部分がありました。
-- なぜ、そこまで事業内容やビジョンへの共感、そして将来性を感じられたのですか?
台湾旅行での経験が大きいですね。私が数年前に再訪した台湾では、既にWeChatで全ての支払いができました。夜市の屋台であってももちろん使えますし、車も買えるし、保険も加入できる。あらゆる購買活動に対応でき、すごく便利だなと感じました。
一方で当時の日本は、現金もしくはクレジットカード、交通系ICカードのみの時代。自分のルーツである日本と台湾の間に大きなギャップを感じたことを記憶しています。
その後時間を経て、ネットスターズのビジョンを聞いた際に「それは日本でも当たり前に現実となる」と台湾での体験とリンクしたのと同時に、もっと色々なニーズがあるとも思いました。
また、QR決済もミニアプリやスーパーアプリも同様ですが、人々の生活の質向上に直結していきます。しかし、日本は他国と比較すると遅れをとっている状況です。ネットスターズであれば、日本の決済シーンをリードし、加速させられると感じました。
-- とはいえ、経済的観点からすると一定下がる部分はあったと思います。その点はどのように考えられていましたか?
私の場合、退職を決めた上での転職活動ではあったのですが、目先の年収を追うことよりも「今得るべしか。あるいは10年間を見て得るべしか」と考えていました。高い年収を何年も維持することは、もちろん1つの考え方です。それとは別に、自身の成長機会に加え、経済的にもボラティリティを享受してアップサイドを取りに行く考え方もあると思います。
ネットスターズであれば、後者も目指せる企業であると思いました。
ただ、それ以上にネットスターズへの強い興味から「絶対に飛び込みたい」と感じた衝動は、意思決定する上で背中を押してくれましたね。
-- 現在、取締役CFOとしてご活躍されていらっしゃいますが、目指しているCFO像はありますか?
私が尊敬するCFOに共通しているのは、社内外のステークホルダーとの調整力、高いコミュニケーション能力、柔軟性を有しているCFOと考えています。
物事を進めるにも、社内外のステークホルダーに透明性を保ったまま、何かしら同じ方向に全員を向かせることができないと、途中で頓挫してしまうことがものすごく多いと感じます。株主の皆様、既存社員役員含めて、同じ方向を向いてもらう努力は、特にCFOに必要だと感じています。
特にスタートアップのような成長過渡期ともなると、社員数も売上も増えていきます。そうなれば、社員間の意見のずれや、他の役員や株主の皆様と方向性の違いが出る局面に直面します。様々な方としっかりコミュニケーションをとり、時には苦いことも言いつつ、目的地を見失わずにあるべき方向に舵を取る調整力は大事だと考えています。
-- 柔軟性についてはいかがですか?
柔軟性は必須だと思っています。変化の早いスタートアップでは、予想もしないことが多々起こります。それに耐える柔軟な対応するためには、過去の経験で培ってきたものが武器になることもありますが、時には過去の経験に囚われず、機転を利かせた意思決定が求められることもあります。
私が心がけていることとしては、企業成長に向けてM&A、出資、ファイナンスと選択肢は様々ですが、常に全ての選択肢を排除しないことです。仮にとある選択肢を考えた場合、今がそのタイミングではなくても、5年後を見据えると排除すべきではない選択肢になりうるケースもあります。過去の経験に基づく教科書的な正解みたいなところは一旦なしにして、確からしさをいろんな選択肢から考えるようにしています。
このような意味合いで、調整力とコミュニケーション能力、そして柔軟性が、企業価値を高められる目指すべきCFOの姿だと思います。
-- ありがとうございます。それでは最後に今後取り組みたいこと、そして一緒に働きたい人物像についてお伺いできますか?
無論、継続的に取り組むべきことは企業価値向上です。あらゆる選択肢を検討し、積極的に推進しつつ、事業成長が加速していく上でのサポートをしっかりと行っていきたいと考えています。
今後という意味では、私はネットスターズのサービスやプロダクトをもっと世の中に浸透すべきと思っていますし、それに資する開発、営業の基盤が構築出来つつある段階にあると思っています。
コーポレートサイドの管掌役員として、社内外の環境を整えて、ネットスターズがより大きな海でも航海ができるようなエンジンになりたい。だからこそ、事業方面も含めて一層のサポートしていきたいと思っています。
-- 一緒に働きたい人物像についてはいかがですか?
フィンテック企業の中でも成長スピードが比較的順調な会社であると自負しているので、このスピード感を楽しみたい人は是非一緒に働きたいですね。インターナショナルバックグラウンドなメンバーが多かったり、スタートアップならではのスピーディな要素もあったりと、はじめから馴染めるという確信は持ちづらいかもしれません。ただ「どんなことでも楽しむんだ」といった心意気のある方は、マッチするのではないかと思っています。
また、私個人としては、どんどん下から突き上げていただける方は理想的です。財務関連で言えば、一緒に切磋琢磨して、なんなら私を踏み台にしていただきたい(笑)。私も負けないように自己研鑽を淀みなく続けていきます。
EVANGE - Director : Koki Azuma / Creative Director : Munechika Ishibashi / Writer : Koki Azuma, Takumi Kubota / PR : Hitomi Tomoyuki, Megumi Miyamoto / Photographer : Takumi Yano