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「働くひとの健康を世界中に創る」をパーパスとして掲げ、ヘルスケア領域においてBtoBサービスを展開する、株式会社iCARE(以下、iCARE)。同社のCOOの石野 良朋(Yoshitomo Ishino)氏のキャリア形成の軸に迫ります。
石野 良朋(Yoshitomo Ishino)
2002年 ソフト技研入社。国交省のシステム開発に従事。2004年 株式会社ベイカレント・コンサルティング入社。大手ポータルサイトの開発後、コンサルタントとして製造・金融業など数多くのプロジェクトを管理。2013年 株式会社マーベラス入社。インフラチームのマネージャーとして従事。2015年 株式会社サイバード入社。開発統括部長として組織戦略から採用まで幅広く従事。2017年よりiCAREにCTOとしてジョイン。開発組織の立ち上げ、人事部長も兼任し、2020年7月より現職COOを務める。
iCAREは「働くひとの健康を世界中に創る」をパーパスに掲げ、BtoBのヘルスケア事業を展開する会社です。
弊社代表の山田はもともと医師として働いていており、仕事が原因で心身の不調を訴える人をたくさん診てきました。少子高齢化により働く人の数も減っていくなかで、いかに仕事に起因する病気を未然に防げるかが大切と考え、未来の社会を守るためにiCAREを立ち上げました。
健康管理システムCarely(ケアリィ)と健康経営コンサルティングなどのプロフェッショナルサービスを提供しています。社員の健康診断やストレスチェックの結果、産業医の面談記録などのデータ分析から組織の健康状態を把握することで、職場の健康改善のアプローチをサポートしています。
CEOの山田が長期のビジョン設計や戦略を担い、私は現在COOとして、今期の売り上げやKPIの達成など短期の事業状況にフォーカスして、サービスのグロースにコミットしています。
もともと数学が得意だったこともあり、大学では工学部に進学しました。当時の工学部生は、システムエンジニアを目指す人が多く、自然と選択肢に出てきたのが「エンジニア」としての道でした。
20代のうちはとにかくスキルを身につけて、30歳でマネジメントの道に進みたいという目標があり、プログラミング・コーディングの実務に携われる環境を求めていました。
株式会社ソフト技研は人数が少なく、しっかりとした教育体制がありました。また、国土交通省のシステムを作っている企業だったので、技術力の基盤もしっかりしていると感じ、入社を決めました。
より大きな案件に携わりたいと思ったことと、当時はWebが全盛期だったので、もっとWeb開発のスキルを身につけたいと思い、転職しました。
実は、ベイカレは当時ピーシーワークスという社名のSIerでした。なので、はじめはプログラマーとして入社したのです。周りには素晴らしい技術を持ったエンジニアがたくさんいたので、とにかく彼らに追いつきたい一心でスキルを磨きました。2年周期で担当する案件が変わり、大手企業のチケットサイトの立ち上げなど、大型案件に携わる機会が増え、さまざまな経験を積めました。
後半の4年間はほぼマネージャーとして働いていました。最初は数名の開発チームのリーダーからはじまり、某大手銀行のプロジェクトを進めるにあたっては40〜50人規模のチームをマネジメントしました。さまざまな規模のマネジメントを経験するなかで、チームで物事に取り組む楽しさに触れました。
そうですね。実際に何度も挫折を経験しました。一方で、「失敗してなんぼだ」とも思ってやっていました。
この後の話に出てくる株式会社マーベラス(以下、マーベラス)では、つい強い口調で言いすぎてしまい、あるメンバーがまったく口を利いてくれなくなる、ということがありました。その次に入社した株式会社サイバード(以下、サイバード)では、逆にメンバーに対して優しく接しすぎて、事業が進まなくなったことも。
これまでの失敗があったからこそ、今やっとバランスの取れたマネジメントができはじめているのです。
マネジメントは対人間のやりとりです。個々の特徴も十人十色で、チームの色もさまざま。だから、「そもそも失敗しないとわからないよな…」という根本的な考えがありました。最初からうまくいくことなんかないと思っているから、諦めることなくチャレンジし続けられたのだと思います。
自社のサービスに関わりたかったというのが大きいですね。コンサルはクライアントのサービスに関わるので、裁量の幅も少ないですし、フルコミットしきれなかった部分がありました。そのため事業会社に入って、さまざまな課題を乗り越えながら、本気でサービスのグロースに取り組みたいと思ったのです。
当時は「技術」と「ポジション」の2軸でいろいろな業界を見ていましたが、そのなかで縁があったのがマーベラスでした。
ゲーム業界は、技術者からすると本当に素晴らしい業界。売れているゲームアプリは1秒間に膨大な数のアクセスが集まります。そんなシステムに携われるのはごく一部のエンジニアだけなので、インフラの最前線の経験をしてみたいと思い、ゲーム業界を選びました。
また、当時のマーベラスのインフラチームには12人のメンバーが在籍していたので、人数規模なども含め、マネジメントの経験を積む環境としてやりがいを感じたことが決め手でした。
自社サービスなので、環境やチームメンバーの持っているパッションが、これまでのコンサル業界と全く違いました。コンサルはどちらかというと正しいことを正しく進めることを重視するカルチャーでしたが、事業会社は、時には「とにかく作ろうぜ!」みたいなパッションも大切ですし、みんな四六時中寝ないでゲームをやるような勢いで、サービスに対する熱量は本当にすごかったです。
一方で、ゲーム業界の奥深さや、厳しさにはとことん悩みました。競合の勢いも脅威で、すぐに模倣されたり、ちょっと気を抜くと置いていかれたり……。四六時中ゲームのことを考えても足りないくらいでした。
入社してすぐにマネージャーに昇進したのですが、当時は、かなり厳しいマネジメントをしていました。
事業会社といえど、熱量の高いメンバーもいればそうじゃないメンバーもいて、こちらもつい語気が強くなったり、怒ってしまうことが増えました。時には「いいから黙ってやってくれ」とメンバーに伝えてしまうことも。結果的に、チームの士気もメンバーのモチベーションも下げてしまい、これが事業会社のマネジメントで経験した初めての失敗でした。
当時、私は32〜33歳でした。20代でエンジニアのスキルを身につけて、30代でマネジメントを経験するという目標を達成したわけですが、その先の目標を考えた時、明確に「CTOになることだ」と思いました。
自社プロダクトを育てる楽しさや、マネジメントでの失敗を経験する中で、「より良いプロダクトを作るには、より良い組織が重要だ」ということに気づきました。技術だけではなく良い組織を作るためには、自分がトップに立ってリードしていく必要がある。そうなると目指すべきはCTOだと。
これはiCAREに入社する話にもつながりますが、IT企業が事業を成功させるためには、エンジニア出身の経営者が必要だと考えているからです。エンジニアの力を最大限に発揮し、強いチームを作り、プロダクトを育てていくためには、エンジニア経験のある人がトップに立たなくてはいけない。
本来事業会社は、組織として社外の競合と競うべきです。しかし、IT企業がよく抱える課題として、ビジネス側と開発側がうまく相容れないという社内の対立構造に陥ることがあります。その状態を避けるためにもエンジニア出身者が経営層に入り、経営と開発組織をつなげる必要がある。私がCTOになることで、そのミッションを担えると思いました。
はい。組織の課題としてもチームをまとめる人が必要な状況だったので、チャレンジすることを決めました。開発統括部長として、業務委託を中心に140人くらいのエンジニアチームをリードしていました。
サイバードでは、前職の失敗を活かして厳しいコミュニケーションを控えようとしすぎた結果、優しすぎるマネジメントをしていました。それが仇となり「この期日までにやって」「進捗どう?」など、事業に必要なコミュニケーションが取りにくくなり、雰囲気はよかったものの、スピード感を持って事業を前に進められない組織になってしまいました。
面白いことに、優しいマネジメントをすれば一定の人はついてきてくれますが、優秀なエンジニアはついてこなくなるのです。優秀でストイックで、自分のスキルをどんどん高めたい人は、指摘を求めている。時には怒ったり指摘したりすることも必要だということを改めて思いました。スピード感を持って事業を推進できなかったことと、優秀なエンジニアに選ばれ続けられなかったこと、この2つが当時の大きな失敗でした。
サイバードでの経験も踏まえて、「ゼロから組織を作って、最高の組織で、最高のプロダクトを作りたい」というのは、ずっと変わらない軸でした。そこで当時の転職活動では、とにかくいろいろな会社の代表と話をしてみました。
話すうちに、世の中のほとんどの経営者は「エンジニアや開発チームは組織にとって大事だ」と言うものの、本当にエンジニアを大切に思っている人は一握りだということを感じました。本当にエンジニアを理解して、大切にしているかどうかは、会って話してみるとわかります。
そのなかで、出会ったのが弊社代表の山田でした。
私からは「ヘルスケアの分野には、正直まったく興味がありません。ただ、コンサルでの経験もあるので、やると決めたら誰よりも詳しくなるところまでやり切ります。その上で、”ゼロから組織を作って、最高のチームで、最高のプロダクトを作ること”が私の夢です」と伝えました。山田は私の思いを理解してくれて、その場で自然と意気投合しました。
そうですね。話してみて、山田がエンジニアリングを理解している人だということがわかりました。加えて、憎めない人柄にも惹かれましたね。彼についていきたい、彼が考えている事業を何としても成功させたいと思いました。
Carelyは私が入社する1年前にローンチしたもので、当時社員は7名ほどしかいないなかで運用していました。私の最初のミッションは、CTOとして開発組織を作り、Carelyをどんどんブラッシュアップしていくことでした。
はい。Carelyは人事労務向けのサービスなので、プロダクト作りに携わる責任者として、顧客と同じ立場になる必要があると考えました。自分が人事部長になれば、顧客と同じ視点でサービスを見れるので、山田に提案して人事部長を兼任することになりました。
私の根底にあるのは、事業やサービスづくりが好きだということです。そのなかで、開発側だけではなく会社全体を、プロダクトのことだけではなく組織全体を見ながら、会社やサービスをより良くしたいと考えるようになりました。そうなると、CTOではなくCOOの方が適していると思い、COOにチャレンジすることにしたのです。
メンバーの規模が70名になるくらいまでは、組織作りも順調だったように思いますが、100名を超えると難易度が一気に上がったように感じています。
というのも、70名くらいまでは経営陣の目が全体に届いていたのですが、それ以上になると組織が見えなくなってくるのです。そうなると、いかに部長をはじめ現場のマネジメント層に任せるかが重要なので、今はそこに私自身の課題、会社としての伸び代があると感じています。
これに関しては、綺麗事はないと思っています。重要なのは、組織内にビジネスがわかる強いエンジニアが1人いるかどうかだと思います。それを担うのがCTO。エンジニアの経験があり、さらにビジネスがわかる人がいないと、両者でミスリードが生まれ、その結果、ボールが落ちてしまい、良い組織づくりの妨げに繋がっていきます。
いい意味で牽制しあいながら、お互いがその境界線を超える関係を作れるかどうかが重要なのではないでしょうか。
実は意外と簡単で、大事なことはエンジニアを1度捨ててみること。例えば、数週間でいいので、カスタマーサクセスの仕事を経験してみることが有効だと思います。顧客の一次情報を取りに行くことで、顧客理解が深まりますし新しい視点も持てるようになります。最近、iCAREでも取り組みはじめています。
はい。とはいえ、エンジニアにとって大きな変化を与えることになるので、なかなか進んで実施するのは大変かもしれません。でも、だからこそ私はやってみたいと思うのです。失敗したら、また新しいやり方を模索すればいい。私は極端なタイプなので、いつもこういうマネジメントスタイルです(笑)。
そうかもしれませんね。世の中に情報が溢れすぎて、最近の人は失敗経験が少ないと思います。マネジメント1つとっても、たくさんの書籍が売られていますし。
でも、実際にやってみないとどうなるかわかりません。だから私はとにかくやってみる。若いうちから失敗しておくに越したことはないと思います。
1つの職種を極めることは大切ですが、そこからビヨンドすることも同じくらい重要です。私の場合は、エンジニアリングのスキルを極め、マネジメントを経験した後に、人事として職種を広げ、最終的にCOOになりました。
エンジニアのみなさんには、たくさんの失敗をしながら、技術的なスキルを極めることと、エンジニアに留まらない経験をしてほしいと思います。そして、多くの優秀なエンジニアが生まれることを楽しみにしています。
六丸 直樹(Naoki Rokumaru)
タレントエージェンシー本部 専門役員
プリンシパル
千葉大学を卒業後、創業数年の20名規模のベンチャー企業に新卒で入社。アライアンス営業から始まり、子会社の広告代理業の立ち上げに従事。その後、2007年よりパソナキャリア(現パソナ)に参画。インターネット業界向けの営業組織立ち上げ、マネージャーを経験。2015年より創業準備中のフォースタートアップスに参画。2019年に執行役員就任。成長産業支援をテーマとし、スタートアップの取締役〜執行役員やCxOなどの経営幹部への転職を支援。
・2018年 ビズリーチ「優秀ヘッドハンター」選出
https://www.forstartups.com/services/talent-agency/principal/rokumaru-naoki
EVANGE - Director : Hanako Yasumatsu / Creative Director : Munechika Ishibashi / Assistant Director : Makiha Orii / Writer : Tomoda / Editor:Hanako Yasumatsu / Photographer : Shota Matsushima