「子供にトライしたことを伝えたい」Anique 共同代表取締役 笠井 高秀 氏が前のめりに取り組む経営

2023-12-04

「デジタルとリアルの力で、キャラクターに命を吹き込み、世界を感動させる。」をミッションに掲げるAnique株式会社(以下、Anique)。同社の共同代表として活躍する笠井 高秀(Takahide Kasai)氏のキャリア形成、企業選択の軸に迫ります。

“ニューエリートをスタートアップへ誘うメディア” EVANGEをご覧の皆さん、こんにちは。for Startups, Inc. の橘 明徳と申します。私たちが所属するfor Startups, Inc.では累計1,200名以上のCXO・経営幹部層のご支援を始めとして、多種多様なエリートをスタートアップへご支援した実績がございます。EVANGEは、私たちがご支援させていただき、スタートアップで大活躍されている方に取材し、仕事の根源(軸と呼びます)をインタビューによって明らかにしていくメディアです。

目次

  1. CFOとしての入社から共同代表に就任した背景
  2. 金融キャリアをスタートしたきっかけ
  3. 次のステップにいくときに意識したい”区切り”
  4. 株式調査部から投資銀行本部へ
  5. 子供にトライしたことを伝えたい
  6. Aniqueを選んだ理由
  7. スタートアップのCFOというキャリアに対して思うこと
  8. 全世界に日本のアニメや漫画の魅力を広げていきたい
  9. 笠井さんをご支援したヒューマンキャピタリスト
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笠井 高秀(Takahide Kasai)
慶應義塾大学卒業後、2011年4月シティグループ証券(以下、シティグループ)に入社し株式調査部にてTMT(テクノロジー・メディア・通信)セクターを担当。2014年よりモルガン・スタンレー証券(以下、モルガン・スタンレー)の投資銀行本部にて、TMTセクターカバレッジとしてM&A、資金調達、IPOといった数多くの案件に従事。2022年AniqueにCFOとして入社。2023年9月より共同代表に就任。

CFOとしての入社から共同代表に就任した背景

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まずはAniqueの事業内容について教えてください。

Aniqueは日本のアニメや漫画のコンテンツをIPホルダーの方からお借りして、アニメや漫画のファンにとってのユーザー体験をデジタル面とリアル面からサポートし、より面白い体験の創出を目指しています。例えば、フィジカルのアニメグッズもつくっていますし、その体験をよりリッチにするためにメタバース空間をつくったり、AIを使い「キャラクターとお話ができる」という、リアルだけでもデジタルだけでもできない体験を作っています。

Aniqueにおける笠井さんの役割について教えてください。

元々CFOとして入社したのですが、2023年9月に共同代表に就任しました。経営全般および、海外のパートナー企業とのやりとりや、海外の卸先への営業を私が担当しています。

共同代表に就任した背景を教えてください。

Aniqueに入社後、CFOに就任し資金調達に加えて海外事業開発及びパートナー企業とのアライアンス体制の構築をしてきましたが、これらをより迅速に行い、事業推進およびガバナンスの強化を図るべく共同代表制を導入することにしました。

また共同代表制の導入は、新しいユーザー体験をグローバルに届けて行くため、創業者であり共同代表である中村がコンテンツづくり及びクリエイティブにより集中していけるようにするための取組みでもあります。

金融キャリアをスタートしたきっかけ

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Aniqueでは現在共同代表を務められていますが、元々のキャリア軸となった金融領域に至るきっかけについて教えてください。

実はひょんなことがきっかけです。大学で就職活動についてどうしようかと考えはじめていたころ、父親の知り合いが勤めているヘッジファンドでアルバイトをすることになったのがすべての始まりでした。アルバイトをしていくうちに、就職先としても金融領域に興味を抱いたのですが、アルバイト先の皆さんに「最初に金融領域に入るなら、幅広く知ることができる調査部でアナリストとしてスタートするのがよいのではないか」というアドバイスをいただいた結果、シティグループでアナリストとしてキャリアをスタートすることになりました。

次のステップにいくときに意識したい”区切り”

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外資系投資銀行はハードな働き方が求められることも多いと聞きますが、シティグループに入られてみてどうだったのでしょうか?

実際、シティグループでアナリストとして働いていた時代が一番忙しかったです。上司も非常に厳しかったことを覚えています。

外資系投資銀行を志し、入社される方も多いですが、業務がハードな分、頑張れる人とそうではない人もいると思います。笠井さんは今振り返ってみて、どのように思いますか?

頑張り続けてかけ上がっていく方もいれば、仕事が合わずに早々にやめて成功する方もいるのでどちらが良いというのはないですが、仮に一区切りするのであれば、私は自分が納得できる区切り(=仁義)を持てるかが大事なのではと思います。

自分の中で不完全燃焼感ある辞め方をして、次の職場でも引っ張ってしまうことは不幸につながると思いますし、私自身 ”区切り”はキャリアの中で意識していることでもありますね。

株式調査部から投資銀行本部へ

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シティグループのあとモルガン・スタンレーに移られていますが、きっかけはなんだったのでしょうか?

2011年から2013年の期間にシティグループにいたのですが、東日本大震災や米国債ショックなどの影響で日経平均が1万円を割ることもあり、すべての日本企業が苦しかった時代でした。自分が担当していたTMT(テクノロジー・メディア・通信)セクターも、多くの企業が大赤字。様々な企業を分析していると「この事業は撤退したほうがよいのでは」とよく考えました。

ですが、アナリストの仕事のメインは投資家向けに投資推奨を行うこと。であれば、より直接的に事業会社相手に企業価値向上のための提案や執行を行いたいと考え、モルガン・スタンレーの投資銀行本部に入社しました。

株式調査部から投資銀行本部へ転身され、アナリストでなく投資銀行という立場だからこそできた、という事例についてお伺いしたいです。

国内大手企業でグループ企業を切り離し、売却した件に関わったことは印象に残っています。

もともとその大手企業は前職のアナリストの時に担当していたのですが、当時から複合事業体(コングロマリット)の中でもそのグループ企業の事業は事業間の相乗効果を生むよりも、逆に1+1が2よりも小さくなってしまっている状態なので、切り離した方がいいという話をしていました。

モルガン・スタンレーに入社後すぐにその大手企業へ提案に出向くことになったのですが、長年思い描いていたことに自分自身が関われたのは投資銀行という立場だからこそですし、形になったときはとても感慨深かったですね。

子供にトライしたことを伝えたい

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そんな中、次のキャリアはどのくらいのタイミングで考えはじめたのでしょうか?

明確にいつからというものはないのですが、アドバイザリーという立場ではなく、自分でリスクを背負って事業をつくってみたいという欲が沸々と高まっていくようになりました。

また、アドバイザリーとして多くのCEOをはじめとしたCxOレイヤーの方とお会いしたことも、事業会社側で経営者として事業をつくってみたくなる要因でした。特に2020年以降はスタートアップ企業と関わることが多く、スタートアップで挑戦したい気持ちが加速しましたね。

徐々にスタートアップへの想いが高まっていったということですね。本格的に転職を検討したいと思われたきっかけはなんだったのでしょうか?

最終的な決め手は子供の教育について考えたタイミングでした。妻とも「子供の幸せとは」という話をよくしていました。その会話の中で、どこかの企業に入るかよりも「常に選択肢があること」が幸せではないかと。子供に「起業してほしい」のではなくて、「起業したいと思った時に事業を創れる能力を持っていて欲しい」と思いました。そんな時に「お父さんは、一回もトライしていないくせに」と息子や娘に言われたら悲しい。仮に転職をして、その先で困難があったとしても、「お父さんはトライしたけど、ダメだったんだよ」って言えた方がいいと思い、今やらないと後悔するという気持ちになったことがきっかけでした。

とはいえ、そう簡単に踏ん切りがつかない方も多いように思います。その辺り笠井さんはどのように考えられていたのでしょうか?

私は「どうせ行くなら早いほうがいい」と考えていました。

投資銀行からCFOの役割でスタートアップへの転職を検討する際、投資家的な視点で「この会社は成功するのだろうか」と検討するケースもあると思います。ただ、それは自分のやりたいことや介在価値を完全に無視しており、結局参画するまで時間がかかったり、挑戦しないまま終わることも多い。

私はむしろその会社を自分が変えたい、バリューアップすることを考えたいので、数年後の市況を見据えて検討すると言うよりは、あえて考えずに早めに挑戦して頑張りたい。そういう思考でないと、自分のやりたいことはできないと当時考えていました。

スタートアップへの転職を検討する際にコンタクトいただいたのがフォースタートアップスのシニアヒューマンキャピタリスト常安 平でした。当時の常安の印象もお伺い出来たら嬉しいです。

とにかくスピーディに返事をいただけるので話がしやすかったことが印象に残っています。また、様々なオプションを示してくれつつ「ここはこういう会社ですよ」とご紹介いただきました。常安さんは各社ともかなりしっかりと会社のことや事業内容を把握されていて、信頼度が高かったです。

Aniqueを選んだ理由

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国内大手企業の案件など、それまでのご経歴的な点だけ見ると、笠井さんとIP領域のAniqueが必ずしも結びつかないように思いますが、スタートアップを検討される際はどのようなことを考えられていたのでしょうか?

実は領域や事業内容は、エンタメ領域とほぼ自分の中で決めていました。ずっとエンタメ、特に子供のころから日本のアニメや漫画が好きでした。またモルガン・スタンレーにいたころから、海外の大きなプレーヤーが「日本のアニメや漫画のIPに興味がある」と相談されることも多く、この分野は世界的に大きなニーズがあると分かっていました。自分が好きなコンテンツを海外に持っていきたい想いと、どうせチャレンジするなら自分の好きな領域に行きたいという想い、あとはすでに事業がガチガチに決まっているというよりは、自分自身が会社の方向性を含めて関われるアーリーフェーズの企業がいいなと思い探していたところ、紹介いただいたのがAniqueでした。

Aniqueは笠井さんの軸に合致していたと思いますが、入社にあたって悩んだ部分もあったのではないでしょうか?

事業内容を理解してからは、そんなに悩まなかったです。懸念事項があったというより、自分の腹決めと周りの説得という感じですね。

入社前後で感じられたギャップなどはありますか?

多くの先輩CFOに事前に話を聞いていたので、大変だろうということは当然想定してました。そのため、事前の予想と程度の違いはあれ「完全に想定外」ということはありませんでした。ただ、自分がやれると思ってたことに対する能力不足・経験不足といった想定外はあるため日々奮闘しているところですね。

スタートアップのCFOというキャリアに対して思うこと

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投資銀行からスタートアップ企業のCFOになられてみて、感じた違いをお伺いしたいです。

環境も業務も全然違いますね。投資銀行の時はコミュニケーション相手は大企業の社長やCFOの方々など、話す相手や仕組みも一定の型がある環境でした。

対してスタートアップでは日々話す相手含め社内外とも環境が変わっていきますし、あれもやらなきゃいけない、これもやらなきゃいけない、これも自分が決めないといけない、という点が大きく異なります。

笠井さんはCFOとして入社後、ファイナンスだけではなく海外展開の面も担われていて、一般的なCFOとは少し違った動き方をされていましたが、そのようにファイナンス以外をやりたい投資銀行の方もいらっしゃるかと思います。そういう方が意識した方がよいことはありますか?

「1円を売り上げる大切さ」ですかね。お金をつくる大変さは、投資銀行やコンサルにいると、なかなか生まれない感覚なのではないかなと思います。私は入社前に「頑張ればできるんじゃないか」と楽観的に考えていた部分もありましたが、思った以上に大変だなと思いました。

CFOとしてファイナンスだけでなく、経営者としてどう会社を伸ばしていくかという考えを持っている方ばかりではないと思います。笠井さんはなぜ会社の成長にコミットしようというマインドが生まれたのですか?

そのほうが純粋に楽しいからではないでしょうか。考え方は人ぞれぞれなので私が口を挟むことではないのですが、せっかくCFOでスタートアップに入っても、投資銀行の時と同じことをするなら投資銀行にいたほうがリスクも少ないし条件も良いと思います。私は投資銀行ではできない経験をしたくてAniqueに来たので、実際に経営のチャレンジができていることが楽しいです。

またキャリア観点で考えても、様々なリスクを考えた時にキャリアの幅をもって仕事ができる能力が必要だと思っています。そう考えたとき、スタートアップで事業を創る経験は10年後や20年後に絶対にためになると感じています。

全世界に日本のアニメや漫画の魅力を広げていきたい

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最後に笠井さんがAniqueで実現したいことを教えてください。

日本のアニメ市場は今とても成長をしていて、グローバルでの市場は2022年に3兆円くらいあると言われています。2030年には6兆円規模になるとも言われていますが、私の肌感覚ではもっと成長すると考えています。そんなアニメや漫画を扱っているスタートアップはAniqueしかない。もっと海外に展開を広げて、多くの人が日本のアニメや漫画をいいね!と思ってくれる機会を増やしていきたいです。

日本のアニメ市場は今とても成長をしていて、グローバルでの市場は2022年に3兆円くらいあると言われています。2030年には6兆円規模になるとも言われていますが、私の肌感覚ではもっと成長すると考えています。そんなアニメや漫画をど真ん中で扱っているAniqueには可能性しかないと考えています。もっと海外に展開を広げて、多くの人が日本のアニメや漫画をいいね!と思ってくれる機会を増やしていきたいです。

現在北米で、日本のアニメや漫画の商品を売っていくサービスの提供に取り組んでいるので、そこからさらに全世界に広げていくことが自分のミッションだと考えています。

最後に笠井さんが仕事においてどのようなことを大事にしているか教えてください。

「楽しいと感じること」が大切だと思うのですが、何を楽しいと思うのかは人によって違うので「自分がどんな時に、何を、楽しく感じるのか」をしっかりと理解することが大事だと思います。私は、自分の力が発揮でき、日々新しい発見がある時にすごく楽しいと感じます。そこにさらに「社会的意義を感じられた方が良い」と思っていて、この3つを大事にしています。また楽しさや社会的意義を「与えてください」ではなく、「こうすればできるよね」と提案することも含めて、構築できるかどうかを大事にしています。

あとは人の評価を気にしないこと。私はもともと家族とかも含め、あまり相談をしないタイプ(笑)。社会的常識というよりも、自分が楽しく感じるかを大事にしています。自分の価値観を共有できる人と一緒にいることを意識しているとハッピーな世界になるのではないでしょうか。

笠井さんをご支援したヒューマンキャピタリスト

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常安 平(Taira Tsuneyasu)
シングレス株式会社 シニアヒューマンキャピタリスト

福岡県出身。大阪大学大学院 工学研究科を卒業後、フロムスクラッチ(現データX)に入社。カスタマーサクセスとしてキャリアをスタートした後、人事として自社採用に従事。2019年にフォースタートアップスへ入社。翌2020年よりエグゼクティブ領域の支援に特化したプロジェクトを推進。2023年2月よりマネージャーとしてチームマネジメントに従事。同年11月よりエグゼクティブ領域に特化をした子会社であるシングレス株式会社に1号社員として出向。現在シニアヒューマンキャピタリストとしてCxO/VP層を中心とした支援に従事。
EVANGE - Director : Kana Hayashi / Creative Director : Munechika Ishibashi / Interviewer : Taira Tsuneyasu / Writer : Kozue Nakamura / Editor:Akinori Tachibana / Assistant Director : Makiha Orii / Photographer : Shota Matsushima
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